・・・こえがきこえる。
うたうような、みみにここちいい。 こえが。


「・・・劉鳳様。起きてください。」
早朝。
決められた時間に、いつものように部屋に入り、いつものように窓のカーテンを開ける。
「・・・・・」
答えはない。これもいつもの事。
「劉鳳様。朝です。」
起こさないと自分が怒られるのは判っている。
なにより、彼が後で困るだろう。
「劉鳳様。」
「・・・・」
・・・・っ!!
「・・・・・劉鳳!わざとでしょう?!起きて!!」
声を荒げて上掛けを取る。
そこにはいつものように笑いをかみ殺しながら
こっちを見ている彼−劉鳳−が居る。

「・・・あぁ。おはよう。水守。」
そうして、思いっきりにこやかに笑うのだ。
そうされるとこっちが大人しくなると思って。

「・・・・おはようございます・・・・・・」

結局、いつもの通りに挨拶を交わす。
また彼が笑う。
勝利者の笑み。
顔が赤くなっているのが判る。
これは怒りなのか。それとも他の感情なのかは判らない。

−あぁ。
・・・・どうして。こんな事になってしまったのでしょうか?お父様・・・・・・・・


 晴天也  - とある かのじょ の にちじょう きろく -



−某月某日 晴天−

『朝 今日も劉鳳は素直に起きてくれませんでした。』

−ふぅ。
日記を付けながら、今日一日の事を思い出すと、ついため息が零れる。
どうしても流されてしまう自分が情けない。と思いつつも、
その関係にどこか慣れてきている自分の感情に、なんだか釈然としない。

私の名は。桐生水守。
本土では、そこそこ名のある家の娘だった。
ーいわゆる、御令嬢−と言うものなのだろうと思う。
自分ではあまり特別な気はしていないのだけれど。
けれども。今の立場は、全然違う。
劉家のメイド。
それも、劉鳳の専属という形でここ。
『ロストグラウンド』に滞在している状態なのだから。

事の発端は、お父様がキッカケだった。
大学をスキップし、本土での研究機関で成果を上げ、
ようやく『ロストグラウンド』への留学の許可も下り、ホーリへの配属も決まった・・・・
その時に、父。桐生忠範が裏に手を回し、私の資格を剥奪した。

 『非道いわお父様!!私はどうしてもロストグラウンドへ行きたいの!!』
 突然の事に、私は怒ってお父様の部屋へ行き、問いただした。
 と言うよりも、抗議だった。
 『・・・あぁ。』
 いすに深く腰を預けたまま、お父様は書類に目を通す。
 『・・・聞いてらっしゃるのですか?!!お父様!!』
 −バン!!
 『ロストグラウンドの治安の悪さはおまえも知っているだろう?!!水守!
  そんな所へと一人娘を行かせる親が何処にいる!!』
 空気を震わせる大音量で、お父様が怒鳴る。
 弾みで叩いた机がビリビリと震える。
 ・・・それ、でも。

 『それでも!!私はロストグラウンドへ行きたいの!!』

 7年前に交わした約束の為に。


「今更だけど・・・やっぱり早まったのかしら・・・・・・」
頬杖をついて、またため息を漏らす。
お父様と口論をした後、私は自分のお金でロストグラウンドまでのチケットを買い、
ロストグラウンドまで来る事は出来た。
けれど。
お父様の手は思ったよりも早く、私が本土へ
連れ戻されそうになった時助けてくれたのが。
7年前に約束を交わした人で有り。
大切な幼なじみである、劉鳳だった。

彼は、私が飛行場で捕まり、強制送還されそうに
なっている所を偶然現れて助けてくれた。

 『水守。何故君がロストグラウンドに?』
 『それは・・・・その。』
 まさか「お父様に反対されたので無理矢理ここに来ました」とも言いにくいし・・・・・・
 逡巡している私に劉鳳は更に言い募る。
 『君の親から捜索願が出ている。君のだ。』
 『・・・・そんな!!』
 私は愕然とした。まさかそこまでされているなんて・・・・・・・・!!
 『・・・なんだって、こんな事になったんだ?』
 ゆっくりと穏やかに話す劉鳳。
 7年前と、全然変わってない。
 『・・・・どうしても、ここに。ロストグラウンドに来たかったの・・・!!』
 約束を守る為に。
 あなたに会いに来る為に!
 声に出せない思いが涙となって頬を伝う。

 『お願い。私、まだ帰りたくない・・・・・そのためなら。』
 『・・・・そのためなら。なんでもする、のか?』

 昔、彼がくれたペンダントヘッドを握りしめて、私は力強く頷いた。

 その時はまさかこんな事になるとは思っても見なかったけれど。

 『では・・・・・劉家に奉公。と言う形ではどうだろう?』

あの時のあの言葉と、あの顔は忘れられないような気がする・・・・・・
その後、劉鳳はお父様に連絡を入れ、劉家に花嫁修業?みたいな形にこぎ着け。
そうして、私は劉鳳専属という形で仕える事になってしまって。
お父様は『劉家と繋がりが』とか喜んでらしたけど・・・
私も、劉鳳の側にいられて嬉しいけど・・・
でも。
「・・・でも。この格好だけは。どうにかならないかしら・・・・」
そういってスカートの裾を持ち上げる。
何枚もの布を重ねた。ドレ−プとレースたっぷりのメイド服。
それに合わせたフリルがやっぱりふんだんに使われたエプロン。
そして、首に回されたチョーカー。
劉鳳から貰ったペンダントヘッドは、チョーカーの先に取り付け変えられている。
ハッキリ言って。足首まであるスカートは動きづらし、
アンティーク人形みたいな格好もなんだか気恥ずかしい。
劉鳳は毎朝私で遊んでいるような気もするし、
前に
「もう一寸普通の服とかが・・・」
と言ったら
「・・・本土へ帰るか?水守?」
とにこやかに返してくれた事も忘れない。
・・・もぅ!!劉鳳の・・・

「・・・『劉鳳の』?なんだ?」

不意に背筋がゾクリと震える。
原因は、耳の側で響いた低い声。

「りゅ、りゅりゅりゅりゅ・・・劉鳳?!」
「日記を付けていたのか。相変わらずマメだな?水守。」
くつりと笑う劉鳳とは対照的に私は血の気が引いていくのが判る。
「に、日課ですもの。」
「声が震えているぞ?何か見られたくない事でも書いていたのか?」
くすくすとまた笑う。とても楽しげに。
「そんな・・・・見てたの?!」
思わず劉鳳に詰め寄ると、また彼は笑う。・・・あ。
「本当に書いていたのか。非道いな水守。」
「引っかけたのね・・・・」
悔しい。いつも彼の手の中で踊っているような気分にさせられる。
「別に俺は何もしていないが?水守が勝手に言ったんだろう?」
「・・・・いぢわる・・・!!」
上目遣いに劉鳳を睨む。
劉鳳は更に楽しそうに笑い、私の手を取る。
「まだ何もしていないが?」
指を絡めたり離したりして玩ぶ。
私はなんだか面白くないし、そうされて恥ずかしいしでそっぽを向く。

いつもいつもこうしてやりこめられる。













「でもそうだな・・・・?それでは君が言うとおり少し意地悪でもしてみようか?」
「なっ・・・・・!!ちょ?!!劉鳳?!!」
















次の日の朝。
私はまたこう言った。
「・・・・・劉鳳!わざとでしょう?!起きて!!」











追記。

日記には
『今日も良い天気で、いつも通りの一日でした』
と劉鳳の手でいつものように締めくくられていた。





―了―


こんなんキャラ違う。敗北。
一人称は難しいですなぁー。

笹川みなとさんからの5555ヒットリクで、
「パラレルで専属メイド水守と主人の劉鳳SS」
「水守の一人称メイド日記帳」
「その日の劉鳳とのやり取りとかを一部抜粋して綴る」
「大体劉鳳が言うこときいてくれないので、困ってる」
「朝の起こすのも一苦労(素直に起きてくれない)」
との事でした。

うーんうーん。未遂な気がしますです(屍)
こ、こんなのですいません!!笹川みなとさん!!

しかしメイド設定は私的にもツボなのでまたどっかで書きたいですな〜。

02/01/22

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