あらがえない。
 あらがうすべをしらない。

 いちどあって。
 みつめられて。
 ことばをかわしてしまったら もぅ。

 わたしは。
 おれは。

 魅縛  - クサリ -


土曜日。午前十一時半。市街。
心地よい休日の昼時。
水守は珍しく私服に身を包み、街中に買い物に来ていた。
その手には、大きな紙袋は3、4個。
どうやら久々の買い物で少々気が緩んだらしい。
(・・・・やっぱりクーガーさんに付き合ってもらえば良かったかしら・・・?)
それは昨日の夕方の話。


金曜日。午後5時半。ホーリー内廊下。
「みっのりさ〜ん♪」
「水守です。」
「あぁ。すいませ〜ん」
いつものやりとりをしながらクーガーが近寄ってくる。
なんでこの人はいつもこんなに上機嫌なのかしら?と水守はいつも不思議に思う。
そして相変わらず自分の名前をきちんと覚えてくれない事にも。

「なにか、御用ですか?」
にこやかに水守はクーガーに問いかける。
「あぁいえ。私の記憶が確かなら、あなたは明日からの土日は休みの筈ですよね?」
「はい。」
「でしたら、明日一緒に街で買い物なぞ致しませんか?」
水守の前に出て、手を広げてクーガーが誘う。
顔にはいつもより更に2.5割増し爽やかな笑顔が張り付いている。
「そうですね・・・・・」
けれどそんなクーガーの様子には気付かないまま、水守は頬に手を当てて思案する。
(確かに、そろそろ新しい服も欲しいし・・・・・)
水守もまだ18の娘だし。買い物もけして嫌いではない。
と。言うよりもかなり好きな部類にはいる。
(・・・・でも・・・・)
「申し訳有りませんが。お断りさせていただきます」
「えぇ〜。そんなぁ。何故ですかみのりさぁん」
「水守です。・・・本当にすいませんが・・・・」
そういってクーガーに頭を下げる。
「・・・判りましたよみのりさん。それでは良い週末を。」
ため息をひとつつき肩を落とすクーガー。
「ですから、水守です。申し訳有りませんクーガーさん。・・・クーガーさんも良い週末を。」

そういって。笑ってクーガーの誘いを断ったのだが。
(結局。買い物に来てるし・・・あぁでも。荷物持ちにさせるのはやっぱりクーガーさんに失礼だわ。)
実は、買い物に行くこと自体に異論はなかったのだが、
女の子としては、男性に服などの買い物に付き合わせるのは非常に心苦しいのと、
思う存分買い物をしたら荷物が凄いことになるのは明白だったので、
クーガーの誘いは遠慮したのだ。
(後は。どこかでお茶でもして・・・それから、デパートに行って食料品とか・・・)
指を折って買いたかった物と買った者を確認してから、
水守はショーウィンドウの中を見ながら歩く。


ところで。
クーガーと水守の会話と偶然聞いていた人物が居た。
とは言っても、正確には通りすがりに聞こえた、と言うのが正しいのだが。

『明日一緒に街で買い物なぞ致しませんか?』
『そうですね・・・・・』

ジグマール隊長への報告書を持って、歩いていたら偶然耳に入った言葉。
「へぇ〜。あの二人って、仲がいいのね。」
彼の隣にいた少女がニコニコしながら感想を漏らす。
「あたし達も、明日は休みだしどっかにいこっか?」
腕を絡めてきながら誘いかけてくる。
「・・・いや。明日はトレーニングをするつもりだ。」
鮮やかに手をふりほどいて彼は隊長の部屋へと急ぐ。
その足取りは、心なしかいつもよりも、速い。
「あんっ。待ってよ。劉鳳ー」


土曜日。午後0時。市街。
水守は、「コレ」というような喫茶店が見つからず、
どうしようかと思っていたら、見知らぬ人達に声をかけられてしまい、困っていた。
「ねぇ。凄い荷物だね?持とうか?」
ニット帽を被った長髪の少年が水守の右に回って話しかける。
「どこかでさ。お茶でもしない?」
短く刈った髪を立てた革ジャンを着た少年がさりげなく今度は左に回る。
まぁ。そこそこ格好良く見えなくも、ない。
よくある、お決まりのナンパ君。と言う奴だ。
「いえ・・・・すいませんが、もぅ帰るので・・・・」
そういって立ち去ろうとしたが、
「うーそ。さっきからあちこち見てたじゃーん」
と言われ。更に困る。
しかも相手は複数だ。
「俺達さ。さっきからずっとアンタのこと見てたんだけどー。
 重そうな荷物抱えて、ずっと一人だったじゃん。かわいそーとか思ってさぁ。」
「いえ。本当にすいませんが。もう帰るので・・・・」
ずっと見られていた事と、軽い口調や勝手な同情心がなんだか気に障って
水守は歩く速度を速める。
彼ならきっと。こんな風には言わない。
「ちょっとちょっと。無視しないでよ。」
「キャ・・・・!!」
グッと、腕をつかまれる。
思わず顔を振り向けたら、目の前に大きな背中があった。

「悪いが。先約だ。」
「りゅう、ほう・・・・・?」
水守を庇うようにして、そこに自分の見知った幼なじみが立っていた。
「んだよ。この・・・・・」
いきなり現れた男に文句を言おうとして口を開けたが、打ち消した。
鋭い目で一瞥をくれた劉鳳が、それだけでただならぬ雰囲気を纏っていたからだ。
顎をしゃくられ、愛想笑いを浮かべながら、二人は決まり悪そうに立ち去る。

「あ、の・・・・どうして。ここに・・・?」
目をぱちくりさせて水守は突然現れた幼なじみに尋ねる。
「あぁ。いや・・・・・・」
劉鳳は、今日は途中までトレーニングをしていたが、
どうにもクーガーと水守の事が気になって集中できないので、
早々に切り上げて会えるわけがないと思いつつ街中にやってきたのだ。
だが。それを水守に言うつもりはない。
「・・・・ちょっとした、偶然・・・・・です。桐生さんは?」
「私は・・・・買い物に・・・・」
こんな時でも、敬語の劉鳳になんだか水守は少し悲しくなる。
「一人でですか?危ないでしょう。」
「そんな、劉鳳・・・・私。子供じゃないのよ・・・・?」
私の方が年上なのに・・・・
なんだか子供扱いされて更にしゅんとなる。
確かに今、劉鳳に助けられたので説得力は全然ないのだが。
「・・・・もぅいいです。それで?買い物は終わったんですか?」
ため息をひとつついて劉鳳が問いかける。
また水守の肩が少し落ちる。
「・・・・関係、有りません・・・・」
こんな話をしたいわけではないのに。
なんだかどんどん気が沈んでいく。

一方、劉鳳はイライラしていた。
街に出てみたとたんに、すぐ水守を見つけられたはいいが変な男達に絡まれているし。
助けたはいいが、いつもの口調で話しかけたら水守は気落ちしていくし。
もっとも。クーガーが居ないことには正直ほっとしたが。
(あぁもぅ。俺が来なければどうするつもりだったんだ?それに関係ない。だと?)
こんな風に休日を過ごしたいのではないのに。
こんな風に話をしたいわけではないのに。
思わずため息がこぼれる。

ふぅ。と劉鳳がまた、ため息をついたのを見て水守は更に沈む。
なんだか非常に悪いことをした気分だ。
でも、自分を「桐生さん」と呼ぶ劉鳳は、なんだか線を引かれているようで。
遠ざけられているようで。
とても。淋しかったのだ。

と。不意に水守のもっていた荷物が軽くなった気がした。
いや。気のせいではなく、事実軽くなっていた。
「え・・・?」
顔を上げる。
「・・・持とう。重そうだ。」
劉鳳が、水守の手から荷物を奪い取る。
「え?でも・・・あの・・・重く、ない、の・・・・?」
「かまわん。それで。あと他に行きたい所は?」
「あ。あの・・・どこかで、食料品とか・・・・」
「判った。・・・行こう。水守。」
少し笑って、水守に手を差しのべる。
水守は、突然自分の望んでいた口調に変わってビックリした。
それに荷物まで持ってくれて。なんだか悪い気がする。
けれど。それ以上に嬉しい。
水守と呼んでくれた。
手を、さしのべてくれた。
わらって、くれた。

それが。
それだけで。

「ありがとう・・・・・劉鳳。」
今まで見た中でも最上級の笑顔で水守は礼を言った。



 さからえない。
 にげられない。
 かれが。
 かのじょが。

 わらってくれるだけで。
 みつめかえしてくれるだけで。

 ーーーーもぅ。





―了―

・・・何処の少女漫画だろうコレは。(屍)
しかも長い。最悪じゃー。(ちゃぶ台返し)

4000ヒットを同時に踏まれたゆたさんのリクでした。
おありがとうございますー。
ですが、こんな腐れ少女漫画ですいません。(涙)

(元々属性は少女漫画描きなんですがねー。
 描く物描く物クソ甘いか、クソ暗いかのどちらかっつー/最悪)

01/12/29

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