そうやって、凛としている君を見ているとなにやら痛々しくて。

 ・・・・酷く辛そうで。

 抱き潰してしまいたくなるよ。


 弓弦  - キヌイト -


・・・声が、聞こえる。
       (聞いた?あの人またなにか新しいのを作ったって。)
嘲笑。
       (新しいプログラムだかだろう?頭の出来が俺達とは違うんだって。)
妬み。
       (深窓の御令嬢様は、わざわざこんな所に来て、何がしたいんだろうネェ)

・・・そして、期待。
       (でもほら。あの人がいれば大丈夫でしょ。)

      『-----桐生家の者として恥じない行動を。』




      そうやって自分は自分を作ってきたのだ。




「・・・君は、いつもそうやって背筋をピンと張って前を向いているのか?」

「え?」

部屋の中。不意に劉鳳が言った言葉に水守はきょとんとした。

「え、えぇ。だって、背中を丸めていたら姿勢が悪くならない?」

「・・・いや。そーゆー事ではなくてだな・・・・」

少し困ったように笑う劉鳳を見て、水守はますます困惑する。

「君は。あまり自ら誰かに頼ることをしない。むしろそうすることを嫌がっている様に思えたんだが。」

「・・・そんな。私、何もできてないわ。貴方を捜すにも、クーガーさんの助けを借りたし、
 橘さんにも、沢山迷惑をかけたわ。
 ・・・本当は、私がもっとしっかりしなくてはいけないのに・・・・・・」

「・・・そこで、何故君が責任を感じるんだ?」

「だって。本土に帰らずロストグラウンドに残ったのは、私の我が儘だわ。
 それなのに、私は一人で思うように動くことすら、ままならなかった・・・・」

 自分の我を通した癖に、結局他人の力を借りなければ何もできない。

 我を通すなら、誰にも迷惑をかけてはいけないのに。

「・・やはり、君は誰かに頼ると言う事を拒んでいるな・・・」

劉鳳が溜息を付いた。

「そんな・・・・」

 だって自分は。幼い頃から言われてきた。

  「桐生家の者として恥じない行動を。」
  「良く学び、良く励み。努力を怠らないように。」
  「貴方には期待していますよ。」

 物心つく前から言われていた言葉。
 期待に応え。 理想を追い。 そしてより高みへと------

「・・・私。クーガーさんと橘さんには感謝しているわ。」

胸の前で手をぎゅっと握りしめて水守は絞り出すように声を紡ぐ。

そしてそれをただ静かに見ていた劉鳳は。

 「・・・君はきっと、

「りゅほ・・・・?」

  ・・・ばかなのだろうな・・・・」

腕の中。包み込むようにして水守を抱きしめた。


  そしておそらく俺も馬鹿なのだろう。


「劉鳳・・・?」

まわされた腕にそっと手を添えて、水守が静かに問う。

「・・・水守。」

「・・・どうしたの・・・・?」

抱きしめるだけで、何をするでもない。

「嫌なことがあるなら、顔に出しても良いんだぞ・・・?」

   彼女は。

   きっとばかで。

   他人に優しく、自分に厳しくて。

   ・・・根っから真面目で。

   自身を赦すこともなく妥協することもなく。ただただ届かない理想ばかり追い求めて。

   頑固で。

   融通が利かなくて。

   ばかなのだろう。


     (赦さなきゃ好きになれないのに。妥協しなきゃ認められないのに。
                    ・・・理想はただ、上にあるだけなのに・・・・。)


「・・・りゅうほう・・・・?」

自分の肩に顔をうずめて、そのまま動かない幼なじみに水守は声をかける。

「私別に、嫌な事なんて、無いわよ・・・・?」

 だって、ここにこうしていられるのに。嫌な事なんて。

「ねぇ、劉鳳・・・」

「では俺は。」

水守の声を遮って劉鳳が言う。

「俺は、そんなに頼りないか・・・・?」

 腕に、少し力が籠もった。


「そんな。そんな事無いわ・・・・
 本当は、年上の私の方がもっとしっかりしなくちゃいけないのに・・・
 貴方に助けて貰ってばっかりで・・・」
 私の方が、貴方に頼られたいのに・・・・


 その言葉を聞いて、劉鳳の腕にまた少し力が入る。

「俺が・・・・」

「りゅうほう・・・・?」


そのまま二人の影と身体が地面で重なっていく。


  『俺がもっと強ければ君は俺を頼ってくれるのだろうか・・・』



 自分は強くありたいと思う。

 自分は強く有らねばならぬと思う。

 けれど、支えの無い力はいずれ破綻する。

 張りつめた緊張はいずれ途切れる。




 それはまるで、強すぎる弓弦のように。












  「酷く不器用なその様子を見ているとなんだか痛々しくて。












          抱き潰してしまいたくなるよ           」











わけわからんちん。

要約するとお互いに「もっと頼って欲しいのにな」と思っているのに
お互いが「他人に頼ることを良しとせずに自分の力だけで全てやりたがる」性質な話。
因みに絹糸というのは「緊張が続けばプッツンぱらり」と言う事で。
(弓弦なのに絹糸なのは強そうに見えても切れてしまうよー?と言う事を言いたかったのですが。)
(言わなきゃ判らないって。/死)

・・・もっと精進して出直しですねぇ。とほ。

01/11/27

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