花の舞い散る下で



side:ラシェル・ヴァンシア〜学内広場

花弁が舞っていた。
青く晴れた空から、白い細かい花弁がヒラヒラ踊りながら落ちてくる。
暖かく柔らかな空気に乾いたレンガの地面

「・・・・」

ボクは一度周りを見渡して姿勢をあらためた。
花弁に包まれた学園の門は、今もまばらに人を吐き出している。
ため息をつきながら学園広場に設置された時計台を見ると、時刻は3時。
そろそろおやつの時間だが、青い空に昇ったにその太陽はぽかぽかと
照らしていた。

「・・・早すぎたかなぁ」

再び周りを見渡し空を見上げ一言だけ言葉を吐き出す。
視界は一瞬、薄い桜色に覆われて、すぐに風に吹き流されていく。
身体に染み込むような春の風。
そして、絶えることなく降り続ける花弁。
心なしか、空を舞う花弁の密度が濃くなったような気がする。
もう一度ため息混じりに見上げた空。
その視界を、ゆっくりと何かが遮る。

「・・・・」

青空を覆うように、青年がボクの顔を見つめていた。

「花、積もってるよ」

ぽつり、と呟くようにささやく。

「ナンパですか?」

わざとジト目で呟くと、青年は慌てて顔を赤くして否定し
アカデミーの勧誘だと言った。
ボクの言葉にまったく予想していなかったのか、それとも恥ずかしいのか。
ボクは興味を持ち少し話してみたいと思った。

「でも、同じようなアカデミーはたくさんありますよ、何が違うんですか?」
「あんなものは紛い物だ!!」
「紛い物なんですか?」

そう言って真剣に話す彼は可笑しくて、そして・・・輝いて見えて。

「あの、所で先輩のお名前は?」
「あっ悪い、俺はルーファス・クローウン。
ウイザーズアカデミーのマスターをやっている。
魔法学科の3ndだよ。」

自分の説明を忘れてアカデミーの説明をしていた事に気がついて照れていた。
それを見てボクは瞬間的に口に出していた。

「ボクはラシェル・ヴァンシア。Skill&Wisdomの1stです。
これからよろしくお願いしますね、先輩」
「よろしくって、えっとそれってつまり」
「ハイ、ボク、ウイザーズアカデミーに入部します!!」

ボクが、そう言うと先輩はボクの手を取って上下に振りながら喜んでくれた。
少し恥ずかしかったけど、ボクも嬉しかった。

そして、ボクが待ち合わせを待っている事を告げると、
一緒に待っていてくれると言ってくれた。
ボク達が学園生活の事などを話しながら待っていると校舎の方から
一人の男の人が先輩に話し掛けてきた。

「よお、ルーファス。ナンパでもしてるのか?(笑)」
「ああ、エリアス良い所に来たな。紹介するよ。
ウイザーズアカデミーの新しい部員だ。」
「1stのラシェル・ヴァンシアです。よろしくお願いします。」
「ラシェルって、君がヴァンシア先輩の娘さん?」
「ええっ、じゃあ、父さんの紹介ってエリアス先輩の事だったんですか。」
「おいおい、紹介って事は、ラシェルはファイターズに入った方が・・。」

ルーファス先輩が複雑そうな顔で、そう切り出してくれた。
父さんが紹介までしてくれた。
それを無視して勝手にアカデミーを決めてしまって良かったのか?
ボクは不安になった。

「ああ、別に構わないだろう?本人が決めた事なんだし」
「どうする、こっちは大丈夫だぞ?」

そう言ってくれてるけど、ルーファス先輩寂しそう、ボクも・・でも、

「ごめんなさい、ボクやっぱり・・」

ファイターズ・アカデミーに入ります。
そうい言う前にボクの言葉は止められてしまった。
エリアス先輩の冷たい声に。

「・・・ラシェル、君は何故ここに来た?」
「ええっ、あの・・その・・」
「おい、エリアスどうした、いきなり?」

どうして?
エリアス先輩怖いよ。
優しそうな先輩のいきなりの変化にボクは混乱していた。
だから、気づかなかった。
ううん、見ることが出来なかった。
エリアス先輩の眼を・・・。

「君は誰かに言われたからこの学園に来たのか?」
「ちっ違う・・ボ、ボクは・・・。」
「君は誰かに言われなきゃ何も決められないのか?」
「違う!!ボクは、ボクは自分で決めてここに来たんだ。
父さん達のような冒険者になるって、だからこの学園に来たんだ!!」

何で初めて会った人に、こんな事を言われなきゃいけないんだ?
いくら先輩だからって、酷すぎるよぉ。
こんな人がマスターだなんて、信じられないよ。
この時、ボクはそう思っていた。
何も知らずに
何も見えずに

「だったら、自分の選んだ事を信じるんだ。
君の選んだのはウイザーズアカデミーなんだろう?」

またいきなり口調が変った。
それに雰囲気も違う、張り詰めた気配のような物も無くなった。
ううん、むしろ最初に会った時のような暖かい感じに、そうそれは・・・

「おい、おい、それとこれとは話が別だろう?」
「いや、同じだと思うが?」
「それに危ないのはお前の所も一緒だろう?」
「な〜に、ラシェルが入らなくても何とかなるさ。
こっちは元々二人いるんだから、これでやっと五分だろ?」

やっとボクにも、今までの事がエリアス先輩のお芝居だって分かった。
最初に眼を見ていたらバレるような簡単なお芝居、それが分かったから
ルーファス先輩は何も言わなかったんだと思う。
(後に笑いをこらえていただけと分かったけど(汗))
そう、この感じ・・・。
同じだったんだルーファス先輩と・・・。
父さんや兄さんと同じ感じ、この感じに引かれたからボクは決めたんだ。
ウイザーズへ入りたいって。
でも・・・。

「ボク、本当にウイザーズに入って良いの?
父さんから手紙来たんでしょう。ボクのせいで先輩に迷惑がかかったら」
「気にする事はない。君のお父さんの手紙には君を頼むとは書いてあった
けどファイターズに入れろとは書いてないからね」
「でっ、でも」

幾らなんでも、それって無茶苦茶なんじゃ?
そう思ったら、少し真剣な顔で

「それとな」
「えっ?」
「俺たちファイターズを余りなめるな。 幾らOBでも今のマスターは俺だ、理不尽な事には従う理由は無い。
まっ、ルーファスの場合はそうでも無いみたいだけどな(笑)」
「デイル先輩がいないから言えるんだよ、お前らはそんな事、ううっ(涙)」
「まあまあ」
「あははははっ(汗)」

これだけのやり取りで二人の間では決着したみたい、何かうらやましいかも。
(ちなみにルーファス先輩の涙の訳は後日、ボクも身をもって体験する事になる。)

「じゃあ、ボクはウイザーズに入って良いんだよね」
「もちろん、歓迎するよ。」
「まあ、剣術や体術何かで困ったら何時でもファイターズに来ればいいよ。
ルーファスに言えば問題無いはずだから」
「えっ、でもそれって??」
「ああ、問題無いよ。今までもそうやってきたし、
これからも変えるつもりは無いよ」
「俺達だって魔法のことで困った時はウイザーズに頼るし、
お互い様って事だよ。」

ボクの思っていたより、ずっとアカデミーの規則って緩やかなのかな?
でも、今まで勧誘されたアカデミーなんかと随分違うような気がする。
その事を質問したとき、二人の表情が少し曇った気がした。

「最近のアカデミーは排他的な物が多いからな。」
「ああ、他のアカデミーに対して活動内容を秘密にする事も多いみたいだしな」
「アカデミーの為のアカデミーって感じになってる傾向あるしな」
「本来は授業の補間としての目的だったんだけどな」
「まあ、単に集まりで楽しむってのも悪くないけどね」
「協力したほうが効率良いんだけどな」

って感じで結構色々あるみたいです。

「それより、ラシェルにとって冒険者って何だ?」
「冒険者って」
「ああ、俺は冒険者ってのは自由な存在だと思う。
自分で選び、自分で考えて、そして自分で行動して
もちろん、それだけに責任も自分で負わなければならない
まあ、パーティなんかを組んだ場合は相談も必要だけどな。
それでも、自分の自分達の考えで最後まで決める事が出来る
それが冒険者の一番良いところだと思うな」
「それと冒険者にとって最高の財宝は冒険そのものって言葉もあるしな」
「冒険者の最高の宝は信頼できる仲間だってのもな」
「それは聞いた事あります」
「まあ、冒険者なんて本来、そんなに実入りの良いもんじゃないしな(^^;;」
「確かに一攫千金も無くは無いが大抵は挫折するか、他の職へ転進だからな」
「あのっ、いきなり夢も希望もなくなるような事言わないで下さいよ」
「「事実だから(だし)」」
「えぅ〜。」

もう、真剣な話をしたと思ったら直ぐこれだもん
もしかしてボク遊ばれてる!?

「まっ、そんな事よりも」
「そんな事で片付けないで下さい〜」
「ああっ、大事な事を忘れていたな」
「えっ、大事な事??」

ボクまた何か忘れてたのかな?

「「Skill&Wisdomへようこそ!!」」

・・・何かうしろにニンジンが浮かんでいるように見えたけど気のせい?(滝汗)
とにかく、こうしてボクの学園での生活は始まった。

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