アマチュア無線による非常通信(最新法令版)
このページの根拠法令は2022年2月11日現在の電波法令です。なお、リンクフリーです。
アマチュア無線が社会に貢献できるものに事故・災害時の非常通信があります。
近年は携帯電話が著しく普及し、各種事故等でアマチュア無線の出番は殆ど無くなりました。更に今まで携帯電話の圏外であった山岳地帯にも中継アンテナが設置される傾向にあり、実際に山の遭難で携帯電話で救助されるケースもみられます。しかし、まだまだ山岳地帯では無線が連絡手段として重要です。今でも山の遭難でアマチュア無線で救助されるケースが報告されています。
大地震や大型台風などの大規模災害では携帯電話が使用できない可能性は高く、電話が集中すれば回線が繋がらなくなりますし、基地局や中継アンテナに被害が及べば携帯電話機を持っていても通信することは出来ません。
そのような場合に、個人としての通信手段の1つにアマチュア無線があります。アマチュア無線は無線機同士で直接交信することができ、全国に約37万局(2022/2.現在)のアマチュア無線局が存在します。アマチュア無線は携帯電話の普及に対しては足下には及ばないものの行政の防災無線や他の業務無線に比べて圧倒的に数も使用できるチャンネルも多いのです。
阪神・淡路大震災では一般電話や携帯電話が壊滅状態のなかでアマチュア無線が非常通信の手段として大活躍しました。この大震災を契機に全国の各自治体等がアマチュア無線の有効性に注目し、アマチュア無線局と非常通信の協定を結ぶケースが増えてきました。
参考までに一例を示すと、例えば横浜市には「横浜市アマチュア無線非常通信協力会」という組織があります。これは1972年(昭和47年)に発足した歴史のある組織です。行政と連絡を密にして行政区単位で防災組織の構成員として位置付けられています。防災訓練などに積極的に参加し会員同士の交流もさかんです。横浜市アマチュア無線非常通信協力会は全国の自治体がアマチュア無線と協定を結ぶ際のモデルケースにもなっています。
非常通信を取り扱うには無線機の操作方法や周波数、電波伝搬の特性などある程度の専門知識が必要です。だから日頃から無線通信の訓練をしているアマチュア無線家の存在が重要になるのです。
以下、このページでは特に注釈を付け無い限り、無線従事者免許を「資格」、無線局の免許を単に「免許」と表記しています。
非常通信の方法
●通信方法
例えばJB1ABCが無線電話により非常通信を行うため「CQ呼出し」を行う場合は・・・
ヒゼウ(非常) ヒゼウ ヒゼウ CQ(3回) こちらは JB1ABC(3回) どうぞ
と送信します。これを受信した JC1ABC が応答する場合は・・・
ヒゼウ ヒゼウ ヒゼウ JB1ABC(3回) こちらは JC1ABC(3回) どうぞ
と送信します。
コンタクトがとれた場合は非常通信の内容や場所等を簡潔に伝え関係方面への連絡を依頼します。
いつ、どこで、誰が、どのような状態かを慌てず正確かつ冷静に伝えることが重要です。
*電波法ではカタカナ表記上「ヒゼウ」となっていますが発音は普通に「ヒジョウ(非常)」でかまいません。とにかく「非常 非常 非常・・」と前置して送信してください。
●非常通信周波数
バンドプラン(告示による。周波数の使用区別のこと)内で3.5MHz帯から1200MHz帯にJARLが独自に非常用周波数と電波型式を定めています。いわば、非常通信周波数は紳士協定のようなものです。(法令による告示には非常用周波数の規定は無い。)
もちろん交信相手が見つかれば、バンドプランに従ってどの周波数を利用してもよいのです。
利用者が多い145.00又は433.00の呼出周波数が応答の確率が高いでしょう。何度呼んでも応答がない場合は、周波数帯をワッチ(チャンネルを回す)して交信中の局に割り込むという方法もあります。交信中の局を見つけたら、送信から受信に移るタイミングに合わせて「ブレーク」と宣言します。ブレークとは「送信を中断せよ」という命令です。その声が相手に届いていれば「ブレーク局どうぞ」と言いますから、非常事態が発生したことを説明してください。アマチュア無線家は親切ですから非常通信に協力してくれると思います。
非常通信周波数 バンド 電波の形式 周波数 4630KHz CW 4630KHz (非常通信専用)※1 3.5MHz CW、AM、SSB系 3,525±5kHz 7MHz CW、AM、SSB系 7,030±5kHz 14MHz CW、AM、SSB系 14,100±10kHz 21MHz CW、AM、SSB系 21,200±10kHz 28MHz CW、AM、SSB系 28,200±10kHz 50MHz CW、AM、SSB系
FM系
FM系50.10MHz
51.00MHz(呼出周波数共用)※2
51.50MHz144MHz CW、AM、SSB系
FM系
FM系144.10MHz
145.00MHz(呼出周波数共用)※2
145.50MHz430MHz CW、AM、SSB系
FM系
FM系430.10MHz
433.00MHz(呼出周波数共用)※2
433.50MHz1200MHz CW、AM、SSB系
FM系1294.00MHz
1295.00MHz(呼出周波数共用)※2FM系ではモールス通信(F2)も可
※1 4630KHzは、非常通信連絡設定専用で、警察庁・自衛隊・海上保安庁等の行政機関と直接交信が可能
※2 FM系で呼出周波数と共用の非常通信周波数は、呼出しと応答の連絡設定に限られており非常通信を継続する場合はFM区分内の他の周波数に変更しなければならない。
非常通信の注意点
●非常通信の要件(条件)
非常通信は次の3つの要件が同時に満たされる場合の無線通信です。(法52条4号)
1.地震、台風、洪水、津波、雪害、火災、暴動その他非常の事態が発生し、また発生するおそれがあること。
2.有線通信を利用することができないか、またはこれを利用することが著しく困難であること。
3.人命の救助、災害の救援、交通通信の確保または秩序の維持のために行われること。
●他の者は傍受し通信を妨害してはならない。
通信相手が見つかってお互いに交信中は他の者は黙ってワッチしなければなりません。法的にもそう決められています。協力したい気持ちから、横から色々な情報を入れると通信が混乱し通報が遅れます。また、依頼されたわけでもないのに、傍受した内容を自分勝手な判断で警察や消防に連絡すると情報が混乱します。実はこのようなケースが最も多く、情報が錯綜して一つの事案が複数になったり、一つの現場に救助隊が重複することがよくあります。決してお節介はしないことです。
●呼出周波数で非常通信を継続してはならない。
FMの呼出周波数は非常通信周波数と共用になっています。呼出周波数での非常通信は呼出しと応答の連絡設定に限られており非常通信を継続する場合はFM区分内の他の周波数に変更しなければなりません。つまり、非常通信だからといって呼出周波数を継続して使用してはならないのです。
理由は混信になるからです。
呼出周波数は他の呼出しにも使用されますし、他の非常通信が重なる場合もあります。特に大規模災害では同時に多数の非常通信が発生します。情報混乱の原因にもなるので交信相手が見つかったら速やかに他の周波数に変更しなければなりません。特に山頂から呼出周波数を独占すると、広範囲ですべての呼出がストップしてしまいます。
非常通信周波数が呼出周波数と共用になっているのはあくまでもワッチしている人が多いからです。
呼出周波数以外の非常通信周波数はそのまま継続して使用してかまいません。
●非常通信周波数で通常の交信をしてもよいか?
呼出周波数以外の非常通信周波数は非常通信が行われていないときはその他の交信に利用することができます。ただし、いつ非常通信が行われるかわからないので利用する際は非常通信周波数であることを念頭に入れた運用を心がけるべきです。ダラダラ通信やブレークインタイムを開けないなどは問題です。
他に周波数が空いているのにわざわざ非常通信周波数を使う必要はないと思いますが、非常通信周波数だということを知らないで使っている人が多いようです。バンドプラン(法令に基づく告示)を常に頭に入れておきましょう。 また、FMの145.50MHzや433.50MHzは、JARLが指定する非常通信周波数だと知らないで使っている人が多いようですので要注意です。
●非常通信は自己責任で!
アマチュア無線の非常通信はそれを行うかどうかは免許人の自主的判断であり、決して義務付けられているわけではありません。
したがって、非常通信に要した費用は自己負担ですし、非常通信中に負傷したり死亡しても誰も補償してくれません。
あくまでもボランティアですので危険をおかしてまで行う必要はありません。
ただし、電波法74条に基づいて総務大臣の要請によって非常通信を行った場合は、それに要した費用は国によって弁償されることになっています。
いままでにアマチュア局には総務大臣の要請による非常通信の例はありません。今後もよほどの国家的危機でもない限りアマチュア局に対して大臣が要請することはないと思われます。よって今後もボランティア精神が基本になるでしょう。
●妨害や虚偽の通報は罪が重い
遭難・非常通信の妨害や虚偽の通報は電波法で厳しく処罰されます。特に航空機や船舶の遭難通信に関する妨害や虚偽は最も重い罪となります。
遭難通信を妨害したものは、1年以上の有期懲役に処する(法105条2項)となっています。
また、船舶遭難又は航空機遭難の事実がないのに、無線設備によって遭難通信を発した者は、3月以上10年以下の懲役に処する。(法106条2項)となっています。
電波法違反の多くは、「*年以下の懲役又は**万円以下の罰金」となっていますが、遭難通信に関する違反はたいへん重い罪となります。法的にもそれだけ重要な通信と位置付けられているのです。
毎年、虚偽の非常通信がいくつか発生していますが、絶対に許されません。
●あとで総合通信局に報告を!
非常通信を行った場合は、その実施状況(日時、周波数、電波形式、通報の発信者名、宛先、通報通数および通報概要など)をすみやかに管轄区域の総合通信局に報告しなければなりません(法80条1項1号)
●非常通信を目的にアマチュア局の開設はできない
アマチュア局はアマチュア業務を行うことを目的とする無線局ですから、災害時の非常通信を目的にアマチュア局を開設することはできません。アマチュア業務に非常通信はありません。
あくまでもアマチュア無線局が、非常時に例外として目的外(非常)通信が認められているだけです。
よって会社や行政機関等の組織が、本部と各支部との非常時の連絡を前提にアマチュア局(社団局)を開設することはできません。
しかし、有志が自主的に同好会のような組織を結成し、普段はアマチュア業務としての交信を行い、非常災害時に他に連絡手段が無い場合に限り、非常通信の目的に合致した内容を伝送することは認められます。そこで全国に○○区役所アマチュア無線クラブ、○○県警アマチュア無線クラブ、○○消防アマチュア無線クラブなどが存在し、いざ非常通信が発生した場合に発信者と直接交信ができる体制を整えているのです。ちょっと本音と建前の要素もありますが、アマチュア無線の慣習を尊重しつつ公共の福祉という面でうまく融合していただきたいと思います。
「非常通信業務」は業務用無線局の正式な業務の1つであり、アマチュア局では行うことはできません。
●消防団等の連絡には補助の通信手段として使用できます。
消防団等の社会奉仕活動には補助手段としてアマチュア無線が使用できますが、業者などの営利を伴う活動には使用できません。その目的に応じて開設した無線設備(特定小電力無線、デジタル簡易無線登録局・免許局、市民ラジオの無線局、小電力コミュニティー無線)を主として使用しましょう。アマチュア無線が使用できますが、あくまでも補助として使うというスタンスで。
●アマチュア局には無資格で非常通信を行うことが出来るという操作の特例はありません。
アマチュア局の無線設備の操作は免許人(社団局は構成員)でなければなりませんが、社団局に限り、非常通信の場合に自局構成員(無線従事者)を操作にあてることができないときは特例として、免許人が承認した、アマチュア無線局の操作ができる無線従事者資格を有する者が無線設備の操作を行うことができます。また、通信に関する電波法令上の責任はその局の免許人になります。無資格者がアマチュア無線により非常通信が出来る唯一の例外が緊急避難による通信です。これは、正に人命救助のため緊急を要する通信を必要としている場合で、アマチュア無線以外に手段が無く、有資格者が死傷などにより事実上有資格者による通信が出来ない場合です。
また、この緊急避難を拡大解釈して、登山等で資格・免許の無い者がもしもの時の非常用にアマチュア無線機を持参するケースがあるようです。
免許を受けていない無線機を実際に非常通信に使った場合は、その非常通信自体はやむを得ない面もあるでしょうが、無免許で電波が発射できる状態の無線機を所持していると、免許を受けないで無線局を開設(不法局)したとみなされますのでご注意ください。
非常通信は正式な免許を受けた無線局に例外的に認められている目的外通信だという認識が必要です。
この緊急避難が最も勘違いされやすいと思います。上記を言い換えれば、正式に免許を受けている無線機の使用が前提です。その無線機の免許人自体が負傷したとか、免許人が他者の救助活動で無線機の操作ができないという場合に、代わりに周囲の者(資格を持っていない)が操作してもよいというものです。あるいは非常事態が発生し、他に連絡手段が無い時に、たまたまそこに無線機があった場合(自分は資格を持っていない)を想定してます。よって最初から計画的に、緊急用に無免許で無線機を所持することを容認するものではありません。その点、特に登山家で勘違いされている方が多いようですので要注意です。
●登山での無線機所持について
最近のハンディ型無線機は小型・軽量で携行にはたいへん便利になりました。登山家は非常時のアマチュア無線の有効性を知っており、もしものために無線機を所持することが多いと思います。その場合、必ず個人局又はクラブ局として免許を受けてください。クラブ局(社団局)であれば、部員は資格のみで交信できます。すでに述べたように、非常通信を目的に開局はできませんから、有志による無線愛好ということで結成してください。非常の場合も念頭に置くのはかまいませんから。
登山家のあいだでは「非常時は資格が無くても緊急避難として許されるから、非常用に無線機(無免許で)を持参する」という話をよく聞きますが、それは勘違いです。非常通信は例外で許されても後で不法開設の容疑で総務省総合通信局から取り調べを受けることになります。くれぐれも無免許で登山の業務連絡に使用するというのはアマチュア無線家を愚弄する行為ですので絶対に止めてください。
正式な免許を受けていても通常はアマチュア業務に則した交信しかできませんから、登山の業務連絡には使用できないことは認識しておいてください。
正式な免許で登山と同時にアマチュア無線の魅力も堪能してください。山頂からCQ呼出したり、仲間と暇つぶしにお喋りするのもよいでしょう。非常通信を受信するのはアマチュア無線家ですから普段から無線仲間と友好関係を築いておくとよいでしょう。
普段からアマチュア業務による交信で無線機の操作方法、交信方法、運用ルール、周波数ごとの電波伝搬の特性、バッテリーの持続時間などを実験・研究しておかないといざという時に十分力を発揮できないことになります。特に山岳地帯では電波伝搬に関する知識が重要です。山頂からは小出力でも遠くと交信できます。谷間では電波は飛びにくいですが、山の位置関係によっては山岳反射や山岳回析という現象を利用して通信することも可能です。そういった通信距離や電波の飛び方の感覚を身につけることが大切です。
●遭難通信と非常通信
遭難通信とは船舶の海難や航空機の重大な危機が発生した時の通信です。登山での非常事態は世間一般では遭難と表現されますが、電波法では非常通信です。電信の遭難信号「SOS」は一般の人にも知名度がありますが、非常通信の「OSO」は無線家でないと知られていないと思います。遭難通信と非常通信では電波法の取り扱いも異なります。無線局には通信事項に目的外使用(非常通信)が認められるが非常通信はあくまでも免許状の範囲内でなければなりません。一方の遭難通信は通信事項はもちろん、周波数・出力・型式などが免許状の範囲を超えても許される最優先の通信です。
しかし非常事態が発生した場合、人命に関る非常事態には違いないわけですから、正確かつ冷静に状況を伝えることが重要です。非常事態か否かは免許人の判断でよいのです。
「アマチュア無線と非常通信」は記載内容が古く(2004年最終更新)、誤記があるのでこちらのページを参考にしてください。
問い合わせ等は「hijyoutsuushin@yahoo.co.jp」へ。