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※R15注意 寝酒も程よく回ってそろそろ床に就くかという頃合、昼間の聞かん坊をどこかに置いてきた神妙な 面持ちと控えめなノックで思わせぶりに訪れておいて、またぞろ犬猫の喧嘩か、それとも今度は何か 真剣な悩み事かと思いきや、言うに事欠いてこの発言だ。まさか酒でも飲ませたんじゃあるまいなと コップの中身をクンと嗅ぎ、闇のなか提供した濃い紫色の飲み物が間違いなくジュースであることを 確認すればため息はますます深くなる。当の本人は至って真面目で、何の迷いも疑いもなく返事を 待たんとこちらをじっと見つめてくるから頭を掻き毟りたくもなるというものだ。 おめえ、いくつになったと大体のところは奴らがこちらに赴任する前に書類を見てきちんと覚えちゃ いるけれど改めて尋ねる。十七だけど?見上げるまなざしは些かの衰えもなくいまだ純真なままだ。 下町じゃそういうアレも早いのか、いやしかし、奴は"おっきいほう"も察せぬ有様じゃないか。どうも 不安を覚える偏りの大きい成長ぶりだ。への字に曲がったまま戻らない口を悪い予兆と受け止めた のか、下がり眉に奴の心情が如実に現れている。ああ、嗚呼。そんな顔しなさんな。俺ァどうしたって この表情に弱い。 普段の奴は転ぶのなら潔く、転ばされたら相手諸共転ぶといった具合に憎たらしいほど芯の太い、 生粋の野良猫か何かに見えるのだが、こうなると途端、親犬に叱られた子犬に化けてしまう。許しを 請うような上目遣いできゃんと鳴かれでもしてみろ、親犬気取った騎士だろうとたちまち盛りのついた 雄犬に変わってしまうだろう。そう、その目だ。この悪たれ小僧はどういうことか男の欲を呼び覚ます のがうまい。知らぬ素振りをしていると、むしろ悪いことをしているような錯覚がするところがいっそう 悪質だった。 これまで数度触れた程度のうぶなくちびるに手をやると、ぺろと薄明かりでも殊更鮮やかな肉色の べろを出し、表面をなぞったかと思うとやわいくちびるで食んでみたり軽く歯を当ててみたりと理性の 堤を執拗に崩しにかかる。どこで覚えてきた悪戯か知らないが、もしやそいつは砂糖菓子か何かで 出来ていたのかというぐらい、ぬるい唾液にとろとろ見る影もなく溶けてゆくではないか。なあ隊長、 だめなのか?ごつごつと節くれだち、剣だこで歪な指を奥まで含みぬらぬらと光るなめくじの足跡を 残しながら首を傾げ、期待を捨てきれない目でちらと獲物を一瞥する黒葡萄の罪作りよ。 跳ね上がった内熱はどうすべきか。これはもう、悪い虫でも付く前に紐でも鈴でも付けておかねば なるまい。あるいは、度の過ぎた悪ふざけに対して灸を据える。あるいは、年頃ならではの好奇心を 悪い連中に利用されないように。もはや口実は何でもよかった。 しょうがねえ奴だ、好きにしろとあくまで立ち位置は優位を保ちながら欲気は隠し小悪魔の願いを 叶えてやる。すると飴を買い与えられたかのごとくやったと無邪気に小さく歓喜して、気の変わらない うちとばかりにいそいそ椅子の正面に跪いた。何か変だ。手際よく前を寛げ下着から躊躇なく性器を 取り出してみせる、そこいらは玄人の手つきそのものだ。そう、慣れている。おいおい、金でも取る気 じゃねえだろうな。呆れた風に膝のあいだにある頭をついと押しやれば、大丈夫、隊長ならタダだぜ と何が大丈夫なもんだか胸を張ってさえみせる。この、クソガキが。 沈黙は数秒に満たないもので、表に出た変化はないつもりだ。しかし何やら察したようで、本当に 困ったときだけだし、大昔のことだよとしゅんとしおれて視線を落とす。今更蒸し返す気も叱りつける 気もないというのにまた下がり眉だ。そんなとこは察しなくともよかったのに不憫な奴だ。額から手を 差し入れて前髪ごと掻き上げてやるとその手のひらに懐くように頭を擦り付けてくる。撫でてくれとは 言えないのだ、このアンバランスの塊は。無性に腹立たしくなって、髪をぐしゃぐしゃになるまで掻き 混ぜてやった。 毛玉のようになり、あにすんだよと抗議の声が跳ねる。仕方なく手櫛で梳いてやると横の髪を耳に かけ、どうやら仕切り直しするらしい。掴んだ性器にすっと顔を寄せ、半端に開いた口からまた舌が 見える。持ち主が言うのもなんだが、それはお世辞にもきれいとは言いがたい。見た目はもちろん、 衛生的にも。そんなろくでもないものが、放っておけば四六時中グミだの飴だのを頬張っている口に 飲み込まれる絵面はどうしても罪悪感を呼ぶ。それを上回って余りあるのは、先の乱れた髪を耳に かける仕草だとか、裏に当たる濡れた舌の感触だとか、先のほうだけで許容範囲を超えてしまい、 ムキになって奥まで突き入れようとしてえづく様子だとかで、これじゃあ満足させられないと思いでも したのか鼻を叢に埋めてまで熱心に励むのも健気で良かった。終わりあたりにはつい喉奥の狭窄を 掻き分けていて、さぞ苦しい思いをさせたろうと思いきや、んべと見せびらかした舌の上に残る白濁。 奴にとっては戦利品に等しいらしい。 んなもん吐き出しちまえと言うや否や、やなこったと飲んでしまいやがる。次に舌を出したときには きれいさっぱり消えていた。何を誇らしげにしているんだか、ばかたれ。これでうがいして帰れと服を 整えてから瓶の残りを注いでやったら途端、奴はごくごく喉を鳴らして一気に飲み干していた。その 顔はやっと生きた心地がしたとでも言いたげだ。 ほらみろ、ガキが粋がりやがって。まずいのはお前がまだまだ子供だって証拠なんだよと嘯いた。 するとどうだ、この程度の嘘にもカッとなり、悪態吐いて逃げ帰る始末。素直な背中はいかにも子供 だった。早く大人になってくれ、もっとゆっくり大人になれ。行き先は犬舎か。明日の朝には勘の鋭い 我が相棒に吠えられるかもしれん。自業自得だ、仕方あるまい。相反する心を肴にもう一杯、今宵の 葡萄酒の渋さときたら。 |