|
風呂あがり、そう言いながら困り顔でずるずると浴衣の裾を引きずり胸元や 太腿もあらわ、帯も紐のような扱いで現れたルートヴィッヒの姿に、菊はたまらず 吹き出した。着付けもわからない彼にいずれ丈をあわせておこうと思っていた かなり大きめのものを着替えとして置いておいた菊が悪かったのだが、責任を 感じるより先に普段きっちりしたルートヴィッヒばかり見ていたおかげでこの ギャップには何かたまらないものがあった。しかしはっと気づいて慌てて口元を 隠しても遅い。見る間に苦虫を噛み潰した顔で落ちた肩に罪悪感を覚えて すみません、ルートヴィッヒさんがなんかかわいらしく見えてしまってとおさまり きれない笑みのまま頭を下げる。するとルートヴィッヒとしては厳しく真意を問い 詰めるわけにもいかず煮え切らない複雑そうなたたずまいしているが、菊に とってはそんなところもそう見えてしまう原因のひとつであった。 「それ、貸してください」 ふふ、と笑みをたたえたまま放っておかれている腰紐を預かり菊は可哀想な ことになっている帯を解き、はじめから手際よく着付けて見せた。背に腰紐を回す と抱きつくような格好になってあまりの近さに胸を高鳴らせるが、普段着慣れて いるとあってその動作は素早く、ルートヴィッヒが見て覚える暇も与えなかった。 丈は腰紐の位置で調節され、ちょうどいい長さになっている。自分がどんな姿に なっているかわからないのかルートヴィッヒは不安げに菊を見つめていたが、 お似合いですよと微笑む菊にそう悪くはないのだろうとほっと息をついた。深い 紺の生地に金髪がよく映えているし、堂々たる体躯はさまになっていて菊は憧れ すら感じる。このあと夏祭りに繰り出したらきっと注目を集めるに違いない。焼き 鳥に焼きそばにクレープにりんご飴、金魚すくいに射的。日本の祭りは初めて だというルートヴィッヒを引き連れて、まずはどこから回ろう。菊は楽しみでしょう がない。そのうち開始の合図の花火が鳴り出した。 「急ぎましょう」 今にも走り出しそうな慌てた気忙しい足取りでルートヴィッヒの手を取って外へ と飛び出した。真っ黒な空には大きな音と共に見事な円形の花火が大輪の花の ように咲いている。花火を見るのにいい場所があるんです、と声を弾ませる菊に 手を引かれれるまま慣れない下駄に苦労しつつその楽しげな後姿に思いがけず 白い首筋を見つけ、抑えの利かない思いを抱えルートヴィッヒはどこへ視線を 向けたらいいかのか困惑の表情で夜道を進む。 |