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※R15 買い換えたばかりだという最新型デジタルテレビの正面、人々を堕落の道に 誘うこたつという悪魔の兵器の特等席は普段ならば菊の定位置だ。テレビや 映画を見るにしろ、ゲームをするにしろ、ひとり暮らしの家主がそこを占拠しても 何らおかしなことはない。ただ、アメリカからひとりの青年がやって来るとそれは 一変する。テレビも映画もゲームも、何をするにもその正面席を陣取るのは彼、 アルフレッドに許された特権だった。それが今日は何か思うところがあるらしい。 アルフレッドの左斜めに座る菊の正面、つまりテレビに向かって右の席につく。 さぞいつもより見づらいだろう位置を一体どんな理由があってわざわざ選ぶのか 菊にはわからない。しかし彼が突拍子もないことをするのには慣れているので 特に理由は問わず、完全に放置してせんべいをかじりながらのんびりしている。 その平穏を邪魔するのがアルフレッドの足だ。菊の両足のあいだに長い足が 割り込んできて、付け根をぐにぐにと土踏まずからかかとにかけて盛り上がる 肉がうまいこと菊の大事なところを刺激する。面白い番組ではなかったため、 元よりテレビに集中していなかった菊はジト目でアルフレッドをにらみつける。 このいたずらっ子めといった声にならない声がそのまなざしに込められていた。 そして性質の悪いことにこのいたずらっ子は菊のそういう反応も大好きなのだ。 にらまれてなお止めようとしない悪戯に耐えかねて菊がぴったり両足を閉じて しまうと、爪先が隙間を広げるようにぐいぐい押し入ってきて、それでも菊が力を 緩めないと知るといかにも不服といった様子で「君は意地悪だな!」と文句を ぶつける。菊は誰が意地悪だ、魂胆は読めているぞいたずら小僧めとばかりに 耳を貸さず今度は正座して手元に置いてあった漫画誌を読みはじめてしまった。 どうあってもアルフレッドの誘いに乗るつもりはないようだ。アルフレッドは諦めが 悪いので股座の上からかかとをぐりぐり下に押し付けて悪戯を続行する。執念の 悪戯の結果、少しずつ少しずつ菊の顔が赤らんできたのがアルフレッドにも見て 取れる。そもそも菊はかなり敏感な体質なのだ。アルフレッドの悪戯はそれを 知り抜いての行為だった。「あ、アルフレッドさん」と抗議の色を滲ませながらも 微塵の迫力も感じられない弱い声がついに敗北を認めると、アルフレッドは喜色 満面でいそいそとこたつの中にもぐり込み、反対側の菊の膝の上からHi!と顔を 出した。やっと狙い通りに事が運んだことにニヤつきながら菊の普段着のひとつ である小豆色ジャージをずり下げて、半ば反応している性器を取り出して棒つき キャンディのようにぱくっと口に含んだ。舌で施す愛撫はまさに子供が飴を舐める ようなじれったい表面をなぞるぐらいのもので、巧みに菊の焦燥と肉欲を白日の もとに晒していく。アルフレッドもすぐにそれだけでは物足りなくなってこたつの 殻から抜け出て、色気の欠片もないラクダ色ジジシャツの下で徐々に硬くなる 乳首を布越しに指の腹をむにむにと押し付けてさらに刺激を加える。この時間と 手間かけた誘惑に完全に陥落した菊は「…いいね?」と艶を含んだ最終確認 にもただ頷くのみだった。こうして合意も得て、そのまま居間でいたそうとする 間際、一旦は了承したはずの菊が急に待った!と手のひらでキスを迫る顔面を 押し退ける。「ゴムをつけないとだめです」これは菊の最後の抵抗だった。そうで なくても近頃なんだか風邪気味で体調がいまひとつなのだ。いつもと同じでは 体力をしこたま削られた上に下痢は確定だ。アルフレッドは後始末が足りなくて 困る。自分でしたくても疲れてきってそれどころではない。老体を労わってほしい ものだと菊は常々思う。そういうわけでアルフレッドは早速通常ゴムを置いている 寝室に走ったのだが空箱があるばかりでその中身がなかった。そういえば結構 前に使い切っちゃったんだっけとアルフレッドは買い足しを忘れた失敗に後ろ頭を 掻いた。居間に戻ってきてそれを報告すると「じゃあ今日はナシということで」と 菊は乱れかけた衣服を整えはじめた。途端えええええ!とあがる不満の声にも 「ナシったらナシです!」と菊は一歩も譲る気配がない。NOと言える日本人に なってもらって一番困る場面でそれはないだろう、こっちだって臨戦態勢なのに。 仕方なくアルフレッドは外出の支度をした。幸いアメリカと違ってここには24時間 営業で品揃えも豊富なコンビニというものが徒歩でいける範囲にあるわけだし、 よっぽどこだわりがなければゴムは簡単に手に入るのだ。「今ダッシュで買って くるから服を脱いでいい子で待ってるんだぞ!」とアルフレッドは寒風吹きすさぶ 外に飛び出した。本当に全速力で行ったらしく、菊は指示通り服を脱いで待って いなかったが十分ほどで戻ってきた。さあ続きしよう続き!と呼吸も鼻息も荒く している。どうしたってすでにほだされきっている菊だ、火のついたアルフレッドは どうせ止められないし、渋々菊は覚悟を決めた。 それからひと月も経った頃、再びアルフレッドが来日した。買い物帰りだという のに明かりに引き寄せられる羽虫のごとくコンビニに立ち寄った二人は肉まん やら何やらを物色する。夏はアイス、冬は肉まんやおでんといった具合で頻繁に 立ち寄るせいですっかり顔なじみの店員はアルフレッドとも親交があるらしい。 菊が会計をするあいだ日本語のヒアリングもそこそこ出来てきたアルフレッドは 別の男性店員と英単語と日本語の入り混じった会話をしている。せっかくの国際 交流を邪魔するのも何なので会計後は週刊漫画誌を立ち読みをしていると突然 アルフレッドが菊のもとに来て「君は元気なのかってあの店員が言ってたよ」と 腕を引く。どういう会話の流れでそうなったのかは知らないが、とにかく自分は 元気である。買い物に来ているのだから見ればわかるだろうにと頭に疑問符を 浮かべながらおとなしく店員の前に連れてこられたところで菊はどうしてそんな 風に聞かれたのかを知ることになった。店員はいかにもカタカナ英語な発音で 「ウェアイズユアハニー?」と問う。アルフレッドは「Here!Here!」と指を差す。 一気に顔をしかめる菊に「彼がこないだのゴムを使った恋人は元気かって言う から」と何でもないことのようにアルフレッドは説明する。残るのは痛いほどの 沈黙。アルフレッドを連れて逃げるように外に飛び出した菊は、もうあのコンビニ 行けないじゃないですか!と寒さのせいだけではなく耳たぶまで真っ赤に染めて 早足で帰っていった。当然アルフレッドはその日からしばらく性的な悪戯どころか キスさえお預けとなった。 |