※処刑人パロ
※ログ66とつながっています




「とにかく、このままじゃ絶対に済まされないよ!」
 私の身に迫る危機を知らせてくれたのは同じマフィアの一員で、多くの人々が
当たり前に暮らす世界に馴染めない私が水が低いところに流れるように組織に
入った当初から特別親しくしてくれた男だった。陽気で気も優しく、何故こんな
善良な人間が、と常々疑問に思っていたものだが、実際彼はマフィアの構成員
とは名ばかりの雑用係や料理番が彼の役目で、無味乾燥の私の世界において
唯一潤いを与えてくれる存在だった。そうだ、彼はあの男が永遠に持ち得ない
ものを持っていた。友情と呼ぶには過ぎるものを、私が名をつけるには相応しく
ないものを、私は密かに彼に抱いていた。その彼と敵対することは正直言って
気が進まない。しかし私のしたことは組織そのものに対しての反逆と同義だ。
組織は全力で私を消しに来るだろう。だがそれはとうに覚悟の上だ。心の優しい
彼の忠告に従ってそそくさと他の町に逃げ出し、ひっそり生きていく選択肢など
今はもう存在しない。私にはやらなければならないことが出来たのだ。希望も
意義もなく、生き延びるためなら手段を選べなかった昔の私ではない。罪深き
者を討つという崇高な使命を帯びた彼ら兄弟のため、少しでも役立てるように。
「ハッ!罪深いあいつらが正しい行いをした菊を始末するっていうのかい?」
「それなら、神の御許へ送るべきはまず…だよね?」
 アルフレッドさんとマシューさんは目配せしあってメッセンジャーに扮し、さぞ
苦労して私の居場所を突き止めやって来たのだろうフェリシアーノ君にまず冷たく
重い音を立てて銃口を向けた。そもそも血生臭い命のやり取りに向いていない
彼はそれだけで全身をおこりのように震わせて。やめてえええ殺さないでえええ
と叫び声をあげながら地面に平伏したまま泣き喚いた。私は慌てて二人に彼の
組織においての立場を説明し、決して罪深き者ではないことを弁明すると彼ら
兄弟はようやく安全装置を元に戻した。私とつながりのある兄弟の存在を含め、
ここで見聞きしたことを誰にも明かさない、そして今日中にマフィアから足を洗う
ことを条件にフェリシアーノ君は神の使いたる彼らの厳罰から免れて、坂道を
転がるようにして逃げていった。私もそれがいいと思う。彼は、フェリシアーノ君は
あんな場所にいてはいけない人間だ。もっと陽の当たる温かい世界で生きるべき
人間だ。私はきっとそんな人間になりたかったのだ。二人に出会うまでは。私は
ひとまず胸を撫で下ろし、彼が去った窓の外を遠く遠く見遣る。もう彼のような
血とは無関係の生き方は出来ない。
「…菊、明日決行しよう。あいつらのアジトにこちらから乗り込むんだ」
「秘密の遊び場があるらしいんだ、僕らと一緒に行ってくれるだろう?」
 私があの日まで一度も殺しをやらなかったのはあの男と同じになりたくないと
いう些細な抵抗だったのかも知れない。けれどあれ以降、何度も何度も洗浄し、
汚れも落ちたはずの手が私にはいまだ赤々と染まっているように見えるのだ。
罪深き者の血はいくら塗り重ねようとも私を後悔などさせないだろうと自身に言い
聞かせ、私は二人から渡された新たな銃を取る。ひんやりとした感触。これが
わずかな指の動作で簡単に人の命を奪うもの。重い鉄の塊。あのときは無我
夢中で何もわからなかった。それまで私のすべてだった男を殺したあのときは。
「ええ、もちろん。どこまでもついていきますとも」
 私は深々と頷く。あのときとは違う種類の震えが手を小刻みに動かす。これは
武者震いだ。口元が弓張り月を形作っているのが鏡を見ずともわかる。これは
歓喜の笑みだ。こうして私は陽の当たらない、漆黒の闇に包まれた真っ暗な道を
選ぶ。そして同時にその道は神に祝福された光り輝くものであると信じている。
もう二度と会うこともないだろうフェリシアーノ君の笑顔を思い出し、太陽の下で
明るく笑っている彼の未来を神に祈る。神様どうか、私がゴミ屑のように死んでも
彼が悲しみませんように。私のことなんてすぐに忘れてくれますように。





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