※ログ59の伊日ルートです




 ある日の朝方、眠りも浅くなってきた頃合ちょうど頬に触れてきた温かいものに
悪寒にも近い妙な違和感を覚えた。菊は普段、買い替えを余儀なくされた広めの
ベッドで両脇をそれぞれフェリシアーノとルートヴィッヒに固められて眠っている。
ルートヴィッヒは生真面目な性格が影響してか寝相はいいが、フェリシアーノの
寝相はひどいもので毎晩のように触手をのびのびと伸ばしては時々菊の体にも
その冷やっこさを伝える。それが頬に触れることだって何度もあった。それ自体は
もう慣れたので別段構わない、構わないのだが今日に限って温かいということに
強い違和感があるのだ。これではまるで人肌のようではないか。菊は気になって
寝ぼけ眼を右隣に向けた。ルートヴィッヒは触手をまっすぐに伸ばし、姿勢正しく
寝息も静かにススススと眠っている。そしてその反対、フェリシアーノの定位置。
そこにホイミスライムの姿はない。代わりにひとりの青年が全裸で眠っていた。
栗色の髪が一部くるんと巻いたのがやたら目につくけれどまったく知らぬ男だ。
頭の中が真っ白になって硬直する菊に、青年はさらに寝ぼけ半分で腕を伸ばし
そちらに引き寄せようとした。一応抵抗はしたのだがそのまま寝ぼけ半分に頬に
ぶちゅっと音の出るくちづけをされて菊は思わず悲鳴をあげた。ルートヴィッヒは
その声で主の危機を感じ取り、すぐさま目を覚ました。愛用の鋼の牙も素早く
身につけて侵入した敵に果敢に立ち向かおうとしたが侵入者は身構えることも
なく呑気に眠ったままである。菊が青年の腕を引き剥がして何とか同じように
刀を構えたところで向こうはようやく不穏な空気を悟ったらしく、薄闇にきらりと
光るひとりと一匹の武器を見て降参降参!とばかりに手を挙げながら俺だよ俺!
フェリシアーノだよ!と言った。ひとりと一匹はもちろんそのような世迷言を端から
信じてはいなかったが、ほら!ほんとだってば!ホイミ!と得意の呪文を唱えて
見せたので信じざるを得ない。今時ホイミのひとつやふたつ、そこいらの村人に
だって唱えられそうなものだが、特技としてそれを披露するような人物はおそらく
悪者ではなさそうだし、第一ほらホイミ出来たでしょ!ね!だから武器向けるの
やめてよー怖いよー!とびーびー泣くような性格の持ち主はフェリシアーノ以外
考えられなかった。べホイミスライムにあるまじき強面のルートヴィッヒがなおも
鋼の牙を剥いて詳しく事情を説明しろ!と脅すので菊はまあまあと宥めながら
いまだ怯えるフェリシアーノを慰めつつこうなった経緯を聞いた。フェリシアーノの
話によると夢の中に金髪で全裸ながら股間だけは薔薇の花で隠したいかにも
怪しげな破廉恥なヒゲ男が出てきたそうだ。破廉恥なヒゲ男は胡散臭さこの上
ないことに自分が神だと名乗り、ええーお前人間になりたいの?人間ってのも
なかなか大変よ?物好きだねーまあいいや叶えてやるよ、今俺最っ高に機嫌
いいからさ!感謝しろよー!などとのたまった挙句投げキッスを寄越してきた
ので咄嗟に避けたという。しかし避け損ねて何かが当たった途端チョロリーンと
安っぽい音がして突然周りが真っ暗になり、目が覚めるとこの姿になってベッドに
寝ていたという。それならそのとき何故言ってくれなかったのかと問えば、曰く
ごめんね眠かったから。そうだ、これがフェリシアーノだと彼の性格をしみじみ
実感しながらひとりと一匹はため息をついた。色々なことが面倒になったので
二人と一匹は夜が完全に明けるまで再び眠ることにした。菊の服ではサイズが
合わなかったので朝一番で防具屋に買いに行き、あれやこれや準備を整えて
改めて人間の生活を学習させようとすると真っ先にフェリシアーノは聞いてきた。
ねえ、人間ってどうやって子供作るの?菊は頭を抱えた。見た目は大人であるが
中身は純真な子供のようなものだ。難しい医学的な用語を並べても到底理解は
出来ないだろうし、俗っぽい生々しい話をしても長年ホイミスライムをやっていた
フェリシアーノにはぴんとこないだろう。菊が返答に困っているとフェリシアーノは
ぱっと明るい顔をしてあ、わかった!鳥さんと一緒でしょ!卵を産むんだね!俺、
ちゃんとあっためるよー!菊、だから安心して産んでね!とにこにこと邪気のない
顔で笑っていた。代わりにツッコミを入れてほしくて菊がルートヴィッヒを見遣ると
何も不自然なことはないとでも言いたげにそれなら巣も作らないとな、と真顔で
アドバイスしていた。スライムの常識など菊は知らない。突然の告白より何より
前途多難なこれからの日々を思い、ただただ途方に暮れた。





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