※ドラクエパロ
※菊以外モンスターです


 菊の本業は冒険者だ。魔王が滅び去ってなお生き残ったモンスターたちが
隠れ住む未踏のダンジョンを探検して得られた貴重なアイテムを売り、生活や
次の冒険への糧とする。その道では菊の名を知らぬ者はいないのだが一見して
そうと見抜くことは難しい痩身ながら剣の腕は確かだ。得物とするはるか東の
国の名刀は彼自身の体躯のように細く薄いが切れ味は保障していい。しかし
ダンジョン内で得物を振るう機会は少ない。何故なら菊はモンスターに懐かれる
という特異体質であるためだ。古の選ばれし一族にそのような能力があることは
噂に聞いたことがあるが、菊がその血に連なる者であるか本人に知る術はない。
育ての親によると菊は捨て子であったそうだ。確かめようもないことなので菊は
たまたま天から授かった便利な特技として受け止めている。その日も菊はこの
特技を利用してモンスターに行く手を阻まれることなく容易くダンジョンを進む
うちにぷよぷよとした水色の頭から複数の触手を生やすホイミスライムと遭遇
した。よほど人間に憎しみや恨みを持つ者でもない限り大体のモンスターとは
戦わずして済むので咄嗟に刀に手をかけることもない。ただし警戒は解かぬよう
心がけながら愛嬌のある顔を見つめているとわあい人間だ!とホイミスライムは
嬉しそうに言った。人語を操るモンスターはとても珍しい。ひたすら感心していると
ねえ俺人間になりたいんだ!人間と友達になったら人間になれるかなあ?俺を
仲間にしてよ!と菊に触手を広げてべったり抱きついてきた。ここまで人懐っこい
モンスターとなるとさらに珍しい。しかも人間になりたいとは。人付き合いが苦手
なので懐かれても仲間を作らない主義を貫いてきた菊だが、ホイミスライムは
ねーねーお願いだよーだめ?だめ?と幼い子供のような素振りでねだってくる
ので菊はどうしても断ることができなかった。しょうがないですねえ、と渋々引き
受けることにするとホイミスライムは俺フェリシアーノっていうの!よろしくね!と
元々アホっぽく緩みまくっている顔をますますアホっぽくしてかわいらしい笑顔を
見せた。フェリシアーノはホイミスライムという性質上回復呪文であるホイミが
得意で、ダンジョン内だけではなく、日常生活においても料理中に指を切った
だけの小さな傷さえひどく心配してたちまち癒してみせた。積極的に菊の役に
立ちたがり、褒められるのを喜ぶところは飼い主に忠実な犬のようだ。一緒に
暮らしているうちにスライムについて色々なことがわかってきた。スライムたちは
じめじめとした場所を好みながらも日向ぼっこがだいすきであることや、あまりに
日向にいすぎるとひからびてしまうため適度な頃合に屋内に戻して水分を補給
させてやらなければならないこと、水浴びもだいすきで案外きれい好きなこと、
水分をふき取った表面はゼリーのようにペタペタしているわけではなくさらっと
していること、人に懐いている彼らの食事は栄養が豊富な植物で、硬い歯茎で
咀嚼し、その水分と栄養成分だけを吸収してあとの絞りカスは吐き出してしまう
こと、だがふわふわと宙を浮いている仕組みについては尋ねてもよくわかんない
と本人すら知らないようでは解明は難しかった。フェリシアーノはこの生活に満足
しているようだったが俺には生き別れの友達がいるんだけど今どうしてるかなー
ルーイ…と時折寂しそうに遠くを見つめるので菊にはアイテム探索以外もうひとつ
目的ができた。フェリシアーノの友達の、スライムにしては厳しいルートヴィッヒと
いう名のべホイミスライムを見つけてやることだ。スライムの類が出没するという
ダンジョンの情報を募り、ひとつずつしらみつぶしに探検しているとやがて本来
アホっぽい顔をしているはずのスライムにしてはやたら険しく哲学的な顔つきを
したフェリシアーノとは色違いのべホイミスライムと出会った。フェリシアーノが
わあいルーイ!久しぶりー!とふよふよ漂いながら抱きついていく。ようやく
友達を見つけてあげることができたらしい。しばし再会の喜びをにょろんにょろん
表していた二匹だが、今俺ねー人間と暮らしてるんだよー菊はとってもいいやつ
だからルーイも一緒に暮らそうよ!とフェリシアーノはいつの間にか菊の了承を
得ず勝手に勧誘している。しかもルートヴィッヒのほうもなんだか乗り気のようで、
またスライムが増えるのかとため息を吐きつつも菊は結局彼の身柄も引き受ける
ことにした。べホイミスライムであるルートヴィッヒはフェリシアーノよりも大きな
怪我を治すことができるだけでなく、無駄に迫力のある知的な顔つきに表れて
いるように非常に賢いスライムだった。人語を操る上に、字も読めるようで菊の
持つ膨大な書物をすべて読破して人間の世界のことをいち早く理解していった
ようである。その後も二匹は人間と暮らす快適な生活をスライム仲間にむやみに
勧めまくるので菊の家にはスライムたちが何匹も居つくようになってしまった。
近隣の家々はモンスターが住まう変な家として最初は遠巻きに見ていただけ
だったのだが、彼らが害意を持たず子供のような無邪気な心で菊に接している
のを知ると少しずつ打ち解けていき、怪我の際や好奇心で訪ねる客をもてなす
あいだにお金を置いていく者も出て、次第にスライムカフェ状態になっていった。
副業が本業の収入を上回る予想外の事態を菊はまあいいかと受け入れるしか
なかった。幸せそうな彼らのアホ面を見るとどうにもきつく言い出せない。それに
本業の冒険に出る回数は減ってしまったが、まだ人語を話せないスライムに
先立って人間社会を学んだ二匹が言葉や常識を教えていく様子はなかなか
微笑ましいし、客を接待していたスライムたちが菊が顔を出した途端に飼い主と
いうかなんというかそういった立場に落ち着いた菊の元に一斉に集まってくる
場面は優越感のようなものを与えてくれるので結局満更ではないのだ。目下の
悩みと言えばどっちが先に人間になれるか競うようにしているフェリシアーノと
ルートヴィッヒの二匹がその目的を遂げてしまった場合だ。モンスターが人間に
なるなど叶わぬ夢であるように思うのだがどうせ神様とかいう輩は気まぐれで
いい加減な存在に違いないので実現してしまいそうな気がしてならない。ホイミ
スライムとべホイミスライムに挟まれて寝るベッドの中でそうなったら増築しないと
いけないのかなあと菊は意図せず額が増えていく預金通帳と夜毎にらめっこして
いるばかりだ。


フェリシアーノルートとルートヴィッヒルートに分岐します





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