淡いラベンダーの夕暮れ、買い物を済ませた菊とヨンスのそれぞれ両手には
白いビニール袋が提げられている。一人暮らしの菊には本来これほどたくさんの
買い物は必要ないのだが、今日はどうやら泊まっていくつもりらしいヨンスの
分や、もしかすると連絡もなしに押しかけてきて和食を食べたがるかもしれない
誰かさんの分の食事の材料も用意しておかなければならなかった。それに
ヨンスときたら、あれもこれもと食べたいお菓子を菊の奢りなんだぜ!と片っ端
からカゴに放り込んでしまうのだから手に負えない。いちいち咎めるのも面倒で
そのまま買ってあげてしまったことが兄に知れたら叱られてしまうだろうか。
気がつけば昼間のにぎやかなアブラゼミの鳴き声は止んで、代わりにひぐらしが
奏でるメロディはどこか物悲しかった。そのセミにも負けない陽気な声でちょる
ちょるとひとり楽しそうに歌っていたヨンスが突然、菊、そこで待つんだぜ!と
言ってどこかへ向かって走り出した。何が起こったのかわからずにひとまず
言われるまま道の途中で立ち止まっているとすぐにヨンスは戻ってきた。その
手には一輪の花が握られている。確かむくげといっただろうか。真っ白な花弁の
かわいらしい花だった。どうやらすぐそこの公園から失敬してきたらしい。それを
菊の髪に飾るとヨンスは似合うんだぜ!と満足そうにしている。いけませんよ、と
嗜めるがにこにこと笑うヨンスはだって花が飾られたがってたんだぜ!とちっとも
悪びれずまたちょるちょる歌いはじめた。まったくもうと呆れ半分、私はおなご
ではないのにと諦め半分、それでも悪い気はせずにああ、これだから兄に
叱られるんだと菊は深々とため息をついた。





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