梅雨の終わり、長雨は続き重たい灰色の雲はどこまでも厚く空を覆っている。
庭木とカエルは喜び歌うものの洗濯物は室内にたまり、もともと少なかった
出かける予定もすべてキャンセル。それでせっかくの休みだというのに何もする
ことがない、そう打ち明けた途端アルフレッドはそうならそうと何故早く言ってくれ
なかったんだいと一方的に電話を切った。一瞬何が起きたかわからずに機嫌を
損ねるようなことでも口にしたのだろうかと自身に問うがそんな覚えはなく首を
傾げる。現に、そう時を待たずに玄関の鐘は鳴った。返事を待たずにその方が
気持ちいいことを学んだ素足が青々とした井草の畳の上を歩いてきた。さあ
一緒に見ようと妙に表情をキラキラさせるその腕いっぱいに抱えられたのは
たくさんのDVDだった。どれもこれもアメリカで作られた映画ばかりだ。お誂え
向きな手土産の容量の大きいコーラとスナック菓子を並べれば純和風の部屋が
あっというまに雰囲気ばかりはアメリカンだ。勝手知ったる我が家のようにごろん
とくつろいだ姿勢でリモコンと主導権を握るアルフレッドに促されるまま菊は
いくつかの作品を見た。多種多様なストーリーながら、しかしラストは決まって
感動的なハッピーエンドを迎える。それも実にアメリカらしい展開で。菊は途中で
隣にいるアルフレッドをこっそり覗き見た。ありきたりのパニック映画だが主人公
と主人公の娘の最後の会話はすべてを伝えきることなく通信が途切れてしまう。
伸ばした手は届くことはなかった。アルフレッドはしきりにジャケットの袖で目元を
拭っている。そっと膝にハンカチを乗せてやるとそれでひとつ鼻をかんでから
両手を伸ばしてきて菊の右手をぎゅっと握って言った。俺は君の手を離さないよ。
どうやら映画に何か影響を受けたらしい。あいにく半べそのアルフレッドでは
あまり格好がよろしくない。けれど菊は笑ったりせずにはい、と素直に返事をして
頷いた。画面では物語が終盤に向かっている。俺は君を泣かせたかったのに、
当初の目的が外れて悔しそうなつぶやきの一方で映画とは無関係に楽しそうな
菊は笑いを隠しながらスナック菓子に手を伸ばす。雨は降り続いている。





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