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※ジャッカルパロ ※英日ではありません注意! アーサーにとって菊は手塩にかけて育てた薔薇に巣食う薄汚い虫だった。 いや、それすら生ぬるい虫以下の存在だった。近頃ではアルフレッドが自分を 疎ましく思い、電話口で口汚く罵ることさえあるすべての原因が菊にあるような 気がしてならない。その証拠に何度忠告してもアルフレッドは戻ってこないし、 何度警告しても菊はアルフレッドから離れようとはしなかった。愛しい愛しい 弟と、突然現れた東洋人。釣り合うはずもない。思い出すだけで胸がむかむか する。あの野郎は私とアルフレッドさんは何でもありませんよと嘯きながら夜毎 その貧相な体で哀れみを請い、惨めたらしいその姿に同情を注ぐとそれを愛の 蜜だと勘違いして悦び、ひとたび咥え込んだなら足を絡め蜘蛛のように獲物の 体液を残らず絞り尽くすまで離してはくれないのだ。それを毎夜毎夜、繰り返し 繰り返し、毒が回って果てるまで。弟は今、そんな目にあっているに違いない。 なんと可哀想なアルフレッド!この世でたったひとり血を分けた弟よ!そんな 害虫は早急に排除せしめねばならなかった。この兄の手で。 ある夜、アルフレッドが急に仕事で呼び出されて菊がひとり家に残っていると 突然、家の中から大きな音が鳴り響いた。音量があまりに大きすぎてそれが 音楽だとはすぐには気づかなかったが、気づいたからといって何故それが鳴り 出したのか家主の菊にもわからない。そもそも音を発するその場所に音楽の 鳴るようなものはあるはずがなかった。何重もの厳重な施錠をしたはずが、 すでに侵入を許してしまったのか。菊は警戒心をむき出しにすぐさま傍らに 置かれた銃を手にした。重みといい冷たい感触といい日頃銃を好まぬ菊には どうしても慣れない道具だが、アルフレッド自ら手入れをした愛用の銃を置いて いったのはアーサーは君を殺すかもしれないと兄の心を読んでいたからだった。 私がお兄さんを撃ったらあなたは私を恨みますか?という質問にアルフレッドは 長い沈黙の末結局は答えを出せずに、君はただ自分の身を守ればいいんだと 逃げを打った。アーサーが思うようにアルフレッドが本当に実の兄への親愛の 情を断ち切ろうとするほど疎ましく思っているのなら迷いなどなかっただろうに、 それを伝える術が菊にはない。とにかく音を止めなくてはとその方向に何発か 発砲するとラジカセか何かに当たったのだろう、狙い通り停止した。騒音から 一転、降りた沈黙は己の息さえうるさいほどに静かで物音ひとつ、風の音ひとつ 聞こえない。にぎやかなのは早鐘を打つ鼓動ばかりだった。音がまったくない 代わりにソファーに身を隠し、聴覚以外の五感で侵入者の気配を探ろうとすると やがてパシュと小さな破裂音が一度だけ聞こえた。同時に菊の腹部には痛み なのかそうでないのか判断のつかない違和感が生じた。反射的に視線をやると シャツがみるみるうちに赤黒く染まっていく。じわじわと襲ってきた苦しさに呻き、 床に倒れ込みながらソファーを見ればひとつ小さな穴が空いていた。相手は ソファーの向こうから正確に狙いを定めて発砲したのだ。菊が倒れたと知って 侵入者はもはや姿や気配を隠すことをしなかった。ソファーを乱暴に蹴りながら 現れたのはアルフレッドの危惧どおりアーサーだった。菊は驚きもしない。咄嗟に 向けようとした銃口は握る手ごと力任せに靴底で踏みつけ、悲鳴と共に離れた 隙に取り上げる。深手を負った菊にはこれ以上の抵抗などしようもなかった。 蓑虫のように転がる菊はやはりアーサーにとって害虫のままなのだろう。赤黒い 血をとめどなく流れさせる菊を悪意に満ちた勝者の笑みで見下ろしたかと思うと 予想に反してとどめは刺そうとせず、それどころか傷口に布を押し当て「強く 押すんだ、止血になる」と親切な紳士のごとく振る舞った。何か罠でもあるの だろうと身構えていれば「この血な、黒いだろ?肝臓を撃たれたってことだ。 止血しなきゃ10分であの世行きだ。早く死にたきゃ放っておきゃいい」と笑う。 それは別に救いの手を差し伸べるでもないただの戯れ、あるいは嘲りだった。 アーサーはただ、必死に生きようと足掻く菊を見たいだけだった。そしてそれが 無残に踏みにじられるさまを見たいだけだった。ここでは死こそが救いであり、 終わりだった。それゆえアーサーの望むままと知っていながら菊は生きるため 助言に従わなければならなかった。苦痛と屈辱に青ざめた顔が歪む。そのとき 遠くからかすかなサイレンの音が聞こえてきた。アルフレッドが企みに気づいて 戻ってきたのだろう。至極残念そうにアーサーはため息をついた。厄介なことに ただ殺すだけでは飽き足らないことにアーサー自身気づいてしまった。もっと、 もっと!苦痛と絶望と屈辱と悲鳴と悪夢と涙と血を!そうすれば、愛しい愛しい 弟は。弟はきっと。「お前のヒーローによろしく言っといてくれ」菊の血で汚れた 指で色味を失った頬にハートを描き、アーサーの笑顔は夜闇の中に溶け入る ようにして消えていった。 たぶんこんなかんじ アーサー:マフィアか何かの偉い人 アルフレッド:異母兄弟だけど家出したっぽいFBI実働部隊 菊:アハーンな関係にあるFBI事務担当 |