※死にネタ注意!
※無意識に1999年七の月っぽかったのを反省しています




 菊はとある黒組織の暗殺屋をやっている。組織の幹部であるアーサーに思いを
寄せ、彼のためなら何をしても良かったが、たまたま才能があったからその道を
選んだ。人の命など知ったことじゃない。血塗られた手を持ちながらなお血を
求めるアーサーもまた密かに菊を愛していたので早く足抜けさせたがったが、
一旦その有用性を認識したボスは菊を手放そうとはしなかった。多数の命を
奪った菊には今や高額な賞金がかけられている。あるとき二人で酒を飲み、
取り留めのない話をした。吸血鬼がいかにして幸福に死すのか、くだらない話
だった。好きなやつに銀の弾丸で心臓を撃ち抜かれたら一発じゃねーの?と
アーサーはあまり深く考えずに酔った頭で答える。菊はそんな面白味のない
答えを楽しそうに受け止め、唐突に手で銃の形をつくるとパン!と口で銃声を
真似てアーサーを撃った。らしくないおふざけに面食らいながらも次第に笑いが
こみ上げてきて菊と二人笑いあった次の日、菊は組織を裏切った。何の前触れも
なく、アーサーはただ驚くばかりだった。誰もが信じられなかったが見せしめに
幹部を二人殺してゆき、これまで以上の賞金がかけられた。復讐心に燃える
元の組織は菊を執拗に追い、やがて追い詰めた。奇しくもその役目を負ったのは
アーサーだった。裏切りは何よりも罪が重い。心を粉々に砕かれるまで拷問に
かけられ、忠誠を誓わせ、その後も蔑まれながら一生見返りもなく組織に酷使
されいつかゴミのように使い捨てられるだろう。アーサーは変わらぬ想いから
逃げろと言った。しかし菊は笑う。逃げる?ええ逃げますともあなたを殺してね。
菊はそう言って素早く胸元に手を突っ込んだ。そこに百発百中を誇った組織
随一の銃があるのだと、断腸の思いであらかじめ構えていた銃を放った。いっそ
共に死ぬしか道がなかった。交差した二発の銃声、ではなかった。アーサーの
撃った弾丸は菊に致命傷を与え、菊の持つ銃からはクラッカーのような火薬の
においと共に万国旗が飛び出している。崩れおる体を抱き止めて、どうしてこんな
ことを尋ねると、血を吐き出す菊の口は笑みを形作り、私の弾丸はあなたの
心臓を撃ち抜いたでしょう?と最期の言葉を告げた。死に顔は幸福そのものだ。
おもちゃの銃は確かにアーサーの心臓を撃ち抜き、その死をもってアーサーの
永遠を奪っていった。アーサーはその功績を認められ組織での立場を一層強く
するも、菊の遺品から余命いくばくもない診断書を発見し、すべての発端を知って
まもなく組織から姿を消してその後の行方は誰も知らない。





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