※ファイトクラブパロのような


 朝トイレに立つと葬り忘れたゴム製の棺が便器の中に横たわっていた。誰かの
白い遺伝子が息絶えようとしている。しばらく世話になっていない代物の主は
侵入者でもいなければただひとりしかいない。どこまでも欲望に忠実な夢を見て
気だるい朝だったがもしかすると夢見の原因は騒音のせいかと思い、嫌な予感を
おぼえて同居人の部屋へと急ぐと床に直接敷かれたマットレスでまどろむ黒髪を
見つけた。突然の来訪者にあたふたと裸体を隠しながらもおはようございますと
ぎこちなく挨拶する声は掠れきっている。やたらきしむおんぼろのスプリングが
恨めしかった。アルフレッドは?と尋ねると今は、いないようですと答える。あいつ
どこ行ったんだと歯噛みするアーサーに、あの、服を着たいんですけどと菊は
遠慮がちに言った。ああ、と頬を赤くし戸惑いながらも部屋の外に一旦出る。
菊は近所の書店の店員で、ずっと親しくなる機会を探っていたのだがある日
とある患者の互助会に顔を出していると聞きつけ、以来アーサーは己の健康を
偽ってありとあらゆる病の互助会をめぐってようやくぜんそく患者の互助会に
出席している菊を発見し、会を通じ連絡先を交換するまでに至った、アーサーに
とっては特別な存在だった。いかにアルフレッドといえどそれを横取りされるのは
勘弁ならない。やがてドアが開き、完璧に衣服を身につけた菊がもういいですよ
と顔を出す。怒りのまま先んじてアルフレッドとはどういう関係なのかと問う。
菊によれば昨日発作を起こして助けを呼ぼうとアーサーに電話をかけたのだが、
出たのはアーサーではなくアルフレッドだったという。アルフレッドはすぐに菊の
家に駆けつけ、病院に運び事なきを得た。それからはなし崩しだったそうだ。
言われてすぐに携帯を確かめてみると、確かに夜中着信履歴が残っていた。
なんということだ。アルフレッドとは物心ついた頃から一緒だったが菊が想い人
だと話したことはない。今の今まで菊自身さえもそうとは知らなかったのだから
知らなかったアルフレッドを恨むのは筋違いというものだ。だが簡単に納得できる
はずもない。どうかアルフレッドさんとケンカなさらないでください、傷つくのは
あなたなのですから。ひとりで考えたいと追い払われ、そう言い置いて去った
菊の言葉の真の意味に、アーサーはまだ気づいてはいなかった。

※アーサーは気づいてないんだけど昼はアーサー、夜はアルフレッドと二重人格
なんだよっていう…すみません。





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