馴染みの面子が顔をそろえての忘年会は菊が幹事を押し付けられた形で
企画されたが旅館側と打ち合わせを重ねた料理と取り揃えた各種アルコール、
自慢の景観に雪化粧した温泉のおかげもあっておおむね好評を得て無事お開き
を迎えそうだった。強いて言うならアーサーの暴走、アルフレッドの泣き上戸、
ルートヴィッヒの薀蓄、フェリシアーノのケンカ腰、ローデリヒのお説教、いつもと
変わらないフランシスの痴漢行為などがなければもっと良かったかもしれない。
その中にあって唯一ヴァッシュのみが迷惑行為をせず秩序を守り、黙々と杯を
傾けていたように見えたがここにきて機嫌は急降下しているようだった。酌をして
回るたび一気を強要されて決して弱くはないはずなのに耳まで真っ赤にして
内なる熱を外に逃がそうと裾や胸元をばっさばっさと遠慮なしに広げている菊の
ところにつかつかと歩み寄り、やおら脱いだ羽織をその露出した足にふわりと
投げかけた。みっともない真似はするな、と言い残してヴァッシュはそのまま
会場を去ってしまう。周囲はそろそろ二次会に、という話になっていてほっとけよ
という声も上がったがそうはできない菊が追いかけると廊下でその背中に追い
ついた。表情はやはり固い。ヴァッシュの言葉に冷や水を浴びせかけられた
ような思いですっかり酔いも冷め、お見苦しいところを見せてしまいすみませんと
頭を下げれば、ヴァッシュは黙ってしばし菊を見ていた。浴衣のたたずまいは
きちんとした姿に戻っている。何も言おうとしない様子に、そんなにも怒らせて
しまったのかと不安を募らせるが思いがけないことをヴァッシュは口にした。
我輩も男なのであるぞ、菊。真意をはかりかね、首を傾げるとヴァッシュは有無を
言わさず唇を頬に寄せてきた。安全牌と思われたら困る、そういうことである。
驚きのままにヴァッシュを見遣ればそれまでの無表情から一転、悪戯好きの
悪い大人の顔でニッと笑う。呆気に取られて呆然と立ち尽くす間にヴァッシュは
おやすみと言い残して部屋へと引き上げてしまったが、残された菊はまた酔いが
戻ったように赤く染まる頬をいけないいけないとつぶやき、我に返るよう叩き
ながら会場に戻っていった。





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