|
※死にネタ注意! ※戦メリパロのような ※ホンダ中尉:捕虜収容所所長、カークランド中佐:捕虜で通訳を兼ねる。 終わりの日が近づき、これが最後の面会となった。監房のコンクリート壁は 冷たく素っ気ないが彼の声は反して温かみを持っている。規律を重んじ、敵にも 味方にも厳しく冬の夜を思わせたあの鋭すぎるまでの剣呑な雰囲気が驚くほど やわらいで、短くはあったが共に過ごした日々の懐かしい思い出話にも微笑すら 交えて乗ってくる。ともすれば同じ顔をした別人のようでどうにも慣れず違和感を 禁じえないが、あくまでも自然な様子は戦争さえなければ本来このような人柄で あったことを匂わせた。らしくない様子が、嫌ではなかった。こんなホンダ中尉を もっと早くに知れたら俺たちはもっと違う立場で違う結末を迎えることが出来た だろうか。思いに駆られても祖国を裏切ることは出来ないし、明日には刑は執行 されてしまう。神の名のもとにお目こぼしをもらい、子供のようにはしゃいで歌い あったクリスマスの夜は二度と帰ってこないのだ。時間は夢のようにあっという 間に過ぎ行き、看守に急かされ振り切るように決死の覚悟で背を向けると、 拙い英語がカークランドを呼び止めた。ミスターカークランド!メリークリスマス、 ミスターカークランド!死の恐怖からも戦争の重圧からも解き放たれた彼は春の ように穏やかに笑っていた。それが彼の声を聞いた最後になり、カークランドは 年老いた今でもクリスマスのたび痛みを連れて思い出す。 |