「君は俺のとこの食べ物のことばっかり言うけどこれはなんだい!この紫!食べ
物の色じゃないよ!」
 アルフレッドは小鉢の中の薄紫の塊をめいっぱい訓練した見事な箸遣いで
つまみあげて鬼の首を取ったようなはしゃぎようで嬉々として尋ねる。確かに
色彩の落ち着いた和食ばかりの食卓の中でそれは文字通り異色をはなって
いたが古くから食べられている由緒正しき食材である。
「ああ菊ですよ、それは」
 箸を止めた菊にそう言われてアルフレッドは思わず菊本人を指差すが己の
真名のことではない。正しく植物の菊だ。咲き誇る薄紫の花弁を容赦なく毟り
取って湯がき、レモンの風味のする三杯酢で味付けされたおひたし。へえ、
菊って食べられるんだねと奇異の目で見るのかと思いきやアルフレッドは案外
素直に感心してつまんだ菊を口に入れた。薔薇のジャムといったものも欧米には
あることだしあまり抵抗がないのかもしれなかった。咀嚼したアルフレッドは
さっぱりしてるとだけその味を評価した。わずかに癖のある、シャキシャキとした
歯ごたえがあるはずだ。しかし、いまいち反応が弱い。思うほど味にパンチが
なかったのだろう。アルフレッドの好物は揚げ物だとか肉だとかいちいちカロリー
の高いものばかりだ。いささか年嵩どころではない菊にすべてそれらのメニュー
が並ぶのはきつかったし、アルフレッドのダイエットも台無しだ。そういうわけで
一品だけはアルフレッドの好きそうなものを置いてあとは大抵野菜のおかず、と
いうことになる。今夜の菊はご近所さんにいただいたものだ。さまざまな食用菊
があるなかで、もってのほかという名の薄紫の菊はちょうど今が旬だった。晩秋
ならではの味覚を菊も味わったところへまたはしゃぎ気味の声がある。
「ねえ菊、もっといろんな菊を使ったらもっとカラフルでおいしくなると思うよ」
 だから、カラフル=おいしいじゃないんですって。と菊は言いそうになったが、
言っても無駄だと早々に諦めた。とは言え料理の盛り付けに彩りは大切である
けれど、なんせアルフレッドの言うカラフルはその域を超えてるのだ。
「…普通の菊は苦くておいしくないんですよ」
 ええーそうなのかいと残念そうなアルフレッドの声を聞きながら、菊は控えめの
色づきのたくわんをぽりぽりとかじってため息をついた。





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