ローデリヒの元に預けられた菊は音楽など勉強の時間のあとのおやつがいつも
楽しみだった。菊がこの身の丈だった頃は甘味料は貴重なものでこれほど甘い
食べものは口にしたことがない。ともすれば口の中がとけてしまいそうなほどに
彼の作るお菓子は甘くおいしかった。そして見たこともないピアノやヴァイオリン
の奏でるメロディもまた元より好奇心の強い菊の興味を強く引き、教えるほうから
すれば教育しがいのある子供と言えた。
「ねえ、ろーでりひさん?」
「なんです?」
「わたしがここに来る前に面倒見てくださったるーいさんなんですけど…」
「彼がどうかしましたか?」
「どうしてお目目が青いんでしょう?」
 ちょこんと小首を傾げて尋ねる様子は可愛らしい。サイズを合わせて仕立てた
上品な服がよく似合っている。いつぞやのメイドの衣装も捨ててはいなかったが
それを着せるのはエリザベータが来るときでいいだろう。昔と同じくローデリヒは
厳しくしつけをするつもりだったが元が元だけに菊は至極行儀のいい子で苦労が
ほとんどないのが良かった。
「あなたはまだ知らないでしょうけど、あなたの国にこんな歌があるのですよ。
とんぼの眼鏡は水色眼鏡」
 いつか聞いたはずの記憶を頼りにピアノをぽろんぽろんと弾いて歌ってみせる
とるーいさんはお空を見てたから青いお目目なんですね!と手をひとつ打って
元気よく言った。それからローデリヒをじっと見つめ、ろーでりひさんのお目目も
すこーし青みがかかってるんですねと笑った子供に、私はあなたの目を見ていた
から黒っぽくなってしまったのですよと微笑んだ。





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