「 長男のくどい絡み酒 」


「我の弟妹たちはみんな可愛くねーある。我が苦労して育ててやったのに揃いも
揃って恩知らずで哥哥は本当にガッカリある。湾の口の悪さは誰に似たんだか、
口を開けばクソじじークソじじーって我を何だと思ってるあるか。香は何考えてる
のか全然わからねーあるし、ついでに何言ってるかもわからねーある。どうしても
って言うから仕方なく留学許してやったのにどこの星に留学したあるか。ヨンスは
人の話を聞きゃしねーある。あのやかましさはどうにかならないあるか。いまだに
まともな彼女のひとり出来ないのは間違いなく合コンの面子のせいじゃなく単に
あいつの性格のせいあるよ」
「…で、愚痴はどこまで続くんですか」
「それもこれも菊!お前のせいある!お前が甘やかすから香も湾もわがまま放題
育っちまったあるよ!ヨンスはお前を全然優しくない冷たい意地悪って言うあるが
それだけ口酸っぱく言わないとあいつの耳に入らないからある!それでも結局は
甘やかしちまうから悪いあるよ!」
「はいはい」
「またそれあるか!大体お前は昔からそうだったある!我に面倒ばっかかけて!
泣き虫のくせして我慢するから一度泣き出すと手に負えなくてしょうがなかった
ある!大人ぶってる割に世間知らずで変態に連れて行かれそうになったことも
あったあるな!我がいなかったらお前なんかとっくに変態の餌食あるよ!その
恩人である哥哥がこんなに嘆いているのに適当に相槌打ってるお前はやっぱり
冷血人間ある!外面だけはいいあるが本性は頑固で偏屈で筋金入りのオタクの
どうしようもないやつある!」
「はいはい、ところで耀さんに報告があるんですが」
「何あるか」
「こないだ湾ちゃんの進路指導があったんです。耀さんだったら絶対反対される
からということで私が学校のほうに行きましてね、湾ちゃん料理の専門学校に
行きたいそうです。たぶんお店継ぐつもりなんでしょうね。あなたが女は厨房に
近寄るんじゃねーある!とか散々言うからムキになっちゃったんじゃないですか。
あ、湾ちゃんの手料理食べたことあります?おいしいですよー家庭用の火力で
あれだけ出来たら充分ですよ。料理を習いたいって言い出したときには好きな
人でも出来たのかなって微笑ましく思ったものですけど。それから香君も大学を
卒業したら同じく調理師免許取るつもりだそうで。あなたがチャラチャラしてるって
嫌ってる芸能界のお仕事も大学卒業したらモデル以外は辞めちゃうんですって。
もったいないですよねーテレビに映ってる香君もかっこいいのに。なんていうか
こう、スペイシーってかんじで。香君器用だから包子とか作るのも早くてきれいで
ほんとおいしいんです。やっぱりお店継ぐ気なんでしょうね。あの二人だったら
あなたが引退してもお店は安泰だと思いますよ。ああそれでヨンスくんはなんか
外資系の企業に内定決まったとか。よく面接通ったなあって思ったんですけど
海外の方と渡り合っていくにはあのぐらい我が強くないといけないんでしょうね。
それにヨンス君って結構努力家ですしね。体力もありますし、まあうまくやって
いけるんじゃないかと私はあんまり心配してないんですけど」
「…そんな話、我は聞いてないある」
「だから今してるんじゃないですか。あなたの反応がうるさいだろうって代わりに
報告するように頼まれまして」
「…今から叩き起こして本人に直接聞いてくるある」
「もう夜も遅いんで明日にしてください。あと、私からも報告があるんで」
「な、何あるか」
「私、先日お見合いをしまして。えーと酒屋さんのお隣の川村さんの奥さん知って
ます?あのサスペンスドラマとかでよく見かける山○紅葉そっくりの。その方が
ですね、私もそろそろいい年だってお見合い話を持ってきたんです。まあ確かに
アラサーですもんね。ああ知ってますかアラサー。アラウンドサーティーの略で、
まあどうでもいいですとにかくお見合いしたんですよ、断りきれなくて。で、行って
みたらあの川村さんからどう繋がりなんだか全然わかんないんですけど相手は
銀行の頭取のお嬢さんとかいう方で。見た目はラ○カっぽいんですけど話して
みると違うな、これはクラ○スだなっていう。ああわかりませんよね、楚々として
可愛らしいもう本物のお嬢様でしたってことです。でも私あなたのおっしゃる通り
三次元の女性には興味ないオタクなんで暴露してお断りしようとしたんですけど、
なんだか向こうも切手オタクっていうか、切手収集が趣味らしくてそういう心理は
自分にもわかるから卑下することなんかない、好きなことに夢中になれる方は
素敵ですって理解して下さって、もうこの先こんなに私を理解してくれる女性に
巡り会うことはないんじゃないかって感動してしまって」
「…それで、そいつと結婚することにしたあるか」
「だから話は最後まで聞いてくださいってば。あなたはいつもそれなんですから、
短気で始末に負えない。ああそれでですね、気が合いそうなので是非お友達に
なりましょうってことでお見合いは終わりです。別に結婚を前提に交際とかそんな
話にはなりませんでしたよ。いやまさか『私、お兄様みたいな方が好きなんです』
って漫画みたいなことが現実に起こるとは思いませんでしたよ、ほんと。で、その
お見合いの場に駆けつけたそのお兄様とやらがそれはそれは強烈な方でして、
お若いのに系列企業で取締役をなさってて、どこらへんがポイントだったのかよく
わかりませんけどほんの少し話をしただけでヘッドハンティングされてその方の
秘書になることになりまして、そんなわけで来月から職場が変わります」
「………」
「報告、終わりましたけど」
「そ、それだけあるか?」
「それだけです」
「そうあるか…まったくお前の話は思わせぶりでいつも我の寿命を縮めるある」
「いい機会ですから言っておきますけど、あのですね、耀さんのことだからどうせ
私たち全員独立するまで自分の結婚なんて考えられないとか思ってるんでしょう
けど、アラフォーなんですからそろそろ子離れしてほしいんです。ああアラフォーと
いうのは…面倒ですね。要するにもう年なんですからそろそろご自分の幸せとか
探してくださいってことです。じゃあ私も寝ないと明日に響くんで寝ますから、酒瓶
とか明日片付けるんでその辺に置いてていいです。では哥哥、お休みなさい」
「わ…晩安」

 どうも可愛くねー我の大事な弟妹たちは我の知らないところでそれぞれ大人に
なっていきながらあいつらなりに我を思ってくれているみたいある。菊はああ言う
けど、やっぱり我の幸せはこの家しかないあるよ。面と向かって口に出すのは…
とても無理あるけど。





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