スケーティング・ペアーズ(以下SP)は、スタック・オリエンテーション

から発足した、「カセットテープ・レーベル」である。

漢字で書くと「滑氷梨」。「思い入れの強いレーベル名が多いので、この

名前にした」(薫 談)だそうで、梨がスケートしているシンボルマーク

もカワイイ。

レブ・ドゥ、のいずんずり、ドライ・セル、dee-bee's live、等が

リリースされた。可愛いマークとは、全く無関係に、

「ダビダビダビダビ」

「ピシュープシュー」

「チカカカカ」

という様な「騒音(ノイズ)」が飛び交う。

さて、唐突ではあるが「現代音楽」というジャンルをご承知か。

「現代」というからには「古典」もあって、それは「バッハ、モーツァ

ルト、ベートーヴェン」などの、いわゆる「クラシック」である。

対しては、J・ケージ、クセナキス、シェーンベルク、武満徹など。

平たく言えば、普通に日常を健やかに過ごせば、まず聴く事は無い

ジャンルであろうと思う。

しかし、この「現代音楽」の技法には、あまりにも魅力的なものが

多い。無調音楽、チャンス・オペレーション、12音技法、プリペアードピアノ、そしてミュージック・コンクレート、、、

佐藤 薫はブラック・ミュージックの蒐集の後、この「現代音楽」

を聴き出したという。それは、かなり深く根源的な処にまで及ぶ。81年

の頃である。

SPの設立は、82年の3月だった。

いささか強引だが、SPは「現代音楽カセットレーベル」だった、と言え

る。

         −ミュージック・コンクレートー

話を少し戻す。「ミュージック・コンクレート(音楽固定化)」

という、1952年フランス、P・シェフェーレが提唱した音楽技法

がある。

その方法論は「自然界に存在する、あらゆる音を録音し、それを

音素材として、電気加工、テープ編集により「組み合わせ」音楽化

する」というものである(参考 田中雄二著 電子音楽イン・ジャパン

 アスキー出版)。

カオルーマコト、カオルーバナナの作品は、正にそうであろう。

また、19世紀末、イタリアでの「未来派運動」

の旗手、ルイジ・ルッソロの唱えた「騒音音楽」にも、SPのルーツが在

るように思う。

駆け足過ぎた感があるが、SPの意義と革新性について考えてみた。

さて、不思議なことに、肝腎の「EP-4」には現代音楽の匂いは全く無い。

何かあっても良さそうなのに、無い。

EP-4のポップ、SPでの芸術。この二極間を浮遊していたのが、カヲル

本体だったと想う。同様に振り子が揺れていたのは、細野晴臣、坂本

龍一、立花ハジメではないだろうか。

工作舎「遊」81年12月号に掲載された、佐藤 薫の原稿

の一部を抜粋したい。

       イメージ#4

まさしく今、「カセット・テープの永遠性」という

テーマを、ソフトでもない、ハードでもない側面、

いわば、普遍的無意識の決定的要因として語らな

ければならなくなっている。もちろん、そこでは、

エロスとタナトスの二極は否定されるー

                       (謹写 圭骸)

最後に、日本で最も聴かれた(売れた)現代音楽は、YMOの

「体操」である。コンクレート(サンプリング)、ループ、

プリペアード・ピアノ、ノイズ、、、

           -終わりに-

この項作成に 田中雄二著 電子音楽イン・ジャパン

 アスキー出版刊 を大いに参考にしました。この本は、本当の

意味で「大作」ですので、エレ・ポップに少しでも興味が在る方は、

是非、御一読を。これ一冊で5年は持ちます。

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