「……………………アーチャー」 そう呼ばれた青年の主人である少女は、微かに顔を俯けたまま自身の使い魔である兵士を呼び止めた。 「…む」 呼ばれたまま、言われたまま。青年は立ち止まり振り返る。 自分の主人の命令は、絶対。 ソレは『令呪』という強制負荷を追加されたという要素を除いても、彼にとって真実彼女の言葉は絶対に近かった。でなければ、マスターと認める筈もなく。また、跪く必要もない。 だから、伏せられた彼女の感情に、気を回さなかった。 そして、俯けた顔からでは表情が見えなかった。 だから、彼女の決意を 見逃した。 呼び止められ、動かぬままに。少女は近づき、彼の衣服を両手で強く掴んだ。 まるで、逃げる事を赦さぬように。 まるで、縋るかのように。 そのまま彼を引き寄せる、勢いよく。同時に少女は踵を高く上げる。僅かでも差を埋める為に。 |
目線を逸らし、けれど傲慢に紡がれた その言葉が、どんな意味を持つかなど。今更声にして確認する必要もなく。 ただ青年は暫し目を大きく見開き、何かを呟こうとして、けれど思う言葉は音になる事もなく。 ただ一度。溜息をついた後、こう言った。 「――了解した。地獄へ落ちろ、マスター」 |