2003/1/6開設
エルミート微分方程式の解の新しい表現の発見


 エルミート微分方程式は、下の@のようなものであるが、この微分方程式は2階であるから、その独立解は当然
二つある。一つは、従来からよく知られてきたエルミート多項式によって表現される解(独立解1とする)であり、もう
一つは、無限級数で表現される解(独立解2とする)である。
以下は、そのもう一つの無限級数解についての考察である。
無限級数解も、もちろん従来より知られていたが、その解の形は、級数の形であり、わかりやすい関数の形の表現
ではなかった。もっと普通の関数的な表現はできないか?、つまり解析的に表現できないか?との疑問がおこり、その
疑問を解く形で、解析的表現を得ることに成功した。
 なお、エルミート微分方程式は、量子力学での調和振動子の解を求める際に出てくる微分方程式であることを付け
加えておく。

 さて、エルミート微分方程式とは以下のものである。
   d^2y/d^2x−2x(dy/dx)+2ny=0   ・・・・・@
             (n=0, 1, 2, 3・・・)

まず念のため、エルミート多項式によって表現される解の方(独立解1)を示しておく。
それは、つぎのロドリグの公式

    Hn=(-1)^n・e^(x^2)・{e^(-x^2)のn回微分}   ・・・・・・・・A

から、次々と紡ぎ出される次の多項式群であり、これらが独立解1の方である。
 H0=1
 H1=2x
 H2=4x^2-2
 H3=8x^3-12x
 H4=16x^4-48x^2+12
   ・
   ・
 さて、今回問題にしたいのは、次のもう一つの独立解の方である。これは、多項式的に表現したとき上の有限で
切れる解とは違って、下記のような無限級数の形となる(これらの級数は収束し、その収束半径は∞)。
下記の解群が今回問題にしたい独立解2である。

[従来表現]
n=0のとき、
 y=x+(1/3)x^3+(1/10)x^5+(1/42)x^7+(1/216)x^9+・・・

n=1のとき、
 y=-1+x^2+(1/6)x^4+(1/30)x^6+(1/168)x^8+(1/1080)x^10+・・・

n=2
 y=-x+(1/3)x^3+(1/30)x^5+(1/210)x^7+(1/1512)x^9+・・・

n=3のとき、
 y=1-3x^2+(1/2)x^4+(1/30)x^6+(1/280)x^8+(1/2520)x^10+・・・
   ・
   ・

上の独立解2に対して、私は次の問題を提示した。

************************************************
[問題1]
独立解2を、解析的に(普通の関数の形で)表現せよ。
不可能ならば、不可能ということを証明せよ。
************************************************

さて、独立解2は解析的に次のように表現できることがわかった(問題1が解けた)。

 A=e^(x^2)、A-1=e^(-x^2)と置く。
A-1はAの逆数。∫Aは∫Adxの略。 ′は微分である。また下記の∫は0〜x を積分範囲とする定積分である。

[”微分-積分重畳表現の解”]
n=0のとき、
  y=∫A

n=1のとき、
  y=A{A-1∫A}′

n=2のとき、
  y=∫{A{A-1∫A}′}

n=3のとき、
  y=A{A-1∫{A{A-1∫A}′}}′

n=4のとき、
  y=∫{A{A-1∫{A{A-1∫A}′}}′}

n=5のとき、
  y=A{A-1∫{A{A-1∫{A{A-1∫A}′}}′}}′

n=6のとき、
  y=∫{A{A-1∫{A{A-1∫{A{A-1∫A}′}}′}}′}
   ・
   ・
(あとは、全く同じ規則性で解が作成される)


独立解2は、さらに次のようにも表現できることがわかった。
[”重積分表現”の解]
n=0のとき、
 y=∫{e^(x^2)}dx

n=1のとき、
y=-1 + 2∫∫{e^(x^2)}dxdx

n=2のとき、
y=-x + 2∫∫∫{e^(x^2)}dxdxdx

n=3のとき、
y=1 - 3x^2 + 2^2・3∫∫∫∫{e^(x^2)}dxdxdxdx

n=4のとき、
y=x - x^3 + 2^2・3∫∫∫∫∫{e^(x^2)}dxdxdxdxdx

n=5のとき、
 y=-1 + 5x^2 - (5/2)x^4 + 2^3・5・3∫∫∫∫∫∫{e^(x^2)}(dx)^6

n=6のとき、
 y=-x + (5/3)x^3 - (1/2)x^5 + 2^3・5・3∫∫∫∫∫∫∫{e^(x^2)}(dx)^7
   ・
   ・
注意:重積分のところを∫・・∫{e^(x^2)-1}dx・・dxで書く変形もあるが上の形で書いた。
 全ての∫は0〜x を積分範囲とする定積分。

 重積分が出てくるところなど味わい深い形である。なお、e^(x^2)のテイラー展開は、
 e^(x^2)=1+x^2/1!+x^4/2!+x^6/3!+・・・・・
であるが、上記解の底流には、このテイラー展開式が基調になって流れている。

また、次の問題2を提示した。

***********************************************************
[問題2]
重積分表現の解の重積分の項”以外の”式つまり多項式(例n=4ではx-x^3)をロドリグの公式(Aを参照)の
ようなものから、導け。これは、上の重積分形の解が、n回微分とn回重積分の形で表現できるのではないか?
という予想である。
***********************************************************

この問題も解くことができた。下記のものである。

 A=e^(x^2)、A-1=e^(-x^2)と置いている。
(A-1はAの逆数。∫Aは∫Adxの略。 ′は微分である。また∫は0〜x を積分範囲とする定積分。)

[”微分表現の解”]
いまS=A-1∫Aとおくと、

n=0のとき、
  y=A・S

n=1のとき、
  y=A・S´

n=2のとき、
  y=A・S´´

n=3のとき、
  y=A・S´´´
   ・
   ・
(例えばS´´´はもちろん3回微分のことである。あとは全く同じ規則性で解が作成される。)

 上の導き方は、先の「微分-積分重畳表現の解」をただエルミート微分方程式に放り込みすこし計算すれば簡単
に出てくる。このように非常に簡潔な形で表現できることもわかったのである。上式は、従来のエルミート多項式を
導き出す”ロドリグの公式”の類似となっており、同時に「問題2」も肯定的に解決された格好である。

以上をまとめると、つぎのようになる。

まとめ
独立解2は、”微分-積分重畳表現”、”微分表現”、”重積分表現”とそして”従来解”も含めて4通りの違った形で
表現できることがわかった。これらは全て同一であることはいうまでもない。


最後に、上記考察においては、Yさんに貴重な助言を頂いた。ここに感謝の意を表します。

参考文献
「量子化学のすすめ」(西本吉助著、化学同人)
「応用数学例題演習4」(松浦省三ほか著、コロナ社)
「量子力学T」(小出昭一郎著、裳華房)
「量子論」(岡部成玄著、近代科学社)
「量子力学30講」(戸田盛和著、朝倉書店)
「マグロウヒル数学公式・数表ハンドブック」(Murray R. Spiegel著、氏家勝巳訳、オーム社)

2003/1/6  杉岡 幹生





数学の研究へ





  数学の中でも、微分方程式を解くという作業は、たのしいものです。
上記の一連の解も発見するまではじつに苦労しましたが解けたときの喜びは格別です。
上の解の中で一番苦労したのは微分-積分重畳表現の解で、発見までになんと2ヶ月近くかかりました。
ただ、発見のよろこびが、苦労などすべて帳消しにしてくれたのはいうまでもありません。

 さて、これからの世の中は、理系はもちろんのこと、経済などの文系においても、微分方程式の知識が非常に
重要視されてくると思います。
 学生さんなどは、世に氾濫する多くの微分方程式の書のどれを勉強したらよいか迷われるのではないでしょうか。
初心者がまず手にとるのはどれがよいかということですが、はじめて微分方程式を学ばれるのならば、私は、
真っ先に次の書を勧めます。

 「記号法ですぐに解ける微分方程式」(金田数正著、内田老鶴圃)

 こんな本は、ほかにありません。
わかりやすことこの上ない。どうも数学者の書くものは気どった表現が多くて嫌になるのですが、この本は、
数学の苦手な人でもおそらく楽に読みこなせる工夫が随所にしてあり、読者の立場にたった得難い書です。

 上書は長いこと読みつがれてきたロングセラーですが、なぜ読みつがれているのか私にはよくわかります。
多くの微分方程式の本を読みましたが、これに及ぶものはない、と言っていいでしょう。
 記号法、ラプラス変換など各種の解法がていねいに書かれており、十分な内容をほこっています。
まずは、これをおすすめします。
                                                      M.S.