No.033

2022年03月27日

小戸のカッパ


小戸海岸


魔除けカッパと福カッパ


 カッパッてえ奴は、八面六臂、いつの時代にもどんな国にも出没し、どんな技でも繰り出せる面白い妖怪なのだ。ある時には江戸時代の人間として登場して、異性に惚れたり政治問題に顔を突っ込んだりもする。カッパと人間の知恵比べや力相撲などは朝飯前のこと。考えようによっては、カッパは猿飛佐助以上の忍術使いかもしれない。その一方で、勧善懲悪をわきまえていたりそうでなかったり、時代を神代のむかしに遡らせて、現代人に情報を発したりもする。


神さまに泳ぎ教える


姪浜住吉神社の女カッパ


今回、カッパの浜五郎は、姪ノ浜(福岡市西区)あたりに現れた。浜五郎は、ひょいひょいと飛び跳ねながら姪ノ浜あたりの旧唐津街道に出た。時代は400年ばかり以前の江戸初期である。唐津街道からさらに北に向かうと、潮の匂いが嬉しい博多湾が待っていた。早速素っ裸になって海中へ。
「よう、浜五郎。久し振りだな」
 むかし馴染みの薦隠れ(こもがくれ)の与太郎が声をかけてきた。
「筑後川育ちのお前に、ちょっとばかり相談があるんだ」
 珍しく与太郎の奴、妙に神妙である。
「実は、大変ご立派なお方に相談を持ち掛けられてな」
「誰だい、与太郎がそんなに尊敬する人間っているのか?」
「そのお方、人間じゃなくて、もっと偉い神さまだよ」


住吉神社の男カッパ


「神さま?」
 与太郎が話すには、その神さまは、唐津街道そばのお宮さんにおられるんだって。神さまは、博多湾に浮かぶ無人島の開拓を計画なさったが、海が荒れていてどうしても舟を出せない。そこでだ、海とか水とかにはめっぽう強いカッパ族に、荒れた海を収めてもらいたいんだとさ」
「そんなことなら、お前がやればいいじゃないか」と浜五郎。
「そうもいかないんだ。相手は人間以上に偉い神さまで、もしも、うまくいかなかったら、カッパ族全体がこの世から追放されるかもしれない。そこで、絶対に失敗しない浜五郎親分の知恵と力をお借りしようと思いまして…」
 日頃使ったこともない敬語を使って浜五郎に言い寄る与太郎。おだてにはめっぽう弱いのが浜五郎である。神さまのご一行を、小戸の湊にお招きして泳ぎの稽古から始まった。神さまの舟を支えるための立ち泳ぎ、沖へ出て荒波に逆らう平泳ぎ、そしてどうにもならない時の背泳ぎから犬かきまで、念入りに教えた。
 お蔭で神さまご一行は無事に離れ小島に上陸されて、野菜や果物が収穫できる土地を作り上げなさった。

変わった恩賞



しばらく経って、浜五郎のもとに神さまからお使いが来た。「明後日、神社内で催されるお礼の宴に招きたい」と。
 訪れてみると、ご本尊の前に豪華なご馳走が並べられている。これまで見たこともない別嬪さん方が、これまたど派手な衣装を身にまとって踊り始めた。ご馳走も踊りも、カッパの世界ではついぞお目にかかれないものばかりだった。そこで神さま。
「この難事業が大成功を収めたのは、カッパ族の皆さまのおかげです。とりわけ浜五郎親分さんには一方ならぬご指導をいただきました。そこで親分の名誉を、未来永劫に語り継ぐために、カッパのお面を本神社のお守りとしたい。ぜひご賛同の程を」と頭を下げられた。
 この時神さまから提案されたお面が、今日も姪浜住吉神社にお参りの皆さんにお配りされているカッパの面だそうな。このお面、そんじょそこらのお面とはちょっと違う。いただいて帰り、お家のどこに飾るかで、ご利益の中身が変わるという変わり種だ。因みに…



玄関に飾ると交通安全
鬼門に置けば」海運・厄除け
居間に掛ければ家内安全・家庭円満
寝室なら健康・子授け・安産
客間とか店先だったら商売繁盛・千客万来
台所に掛ければ水難・火難防止などなど。
皆さんもぜひお試しあれ、とカッパの浜五郎が申しております。



そのためには、712日と13日に姪浜住吉神社にお参りして、カッパの面を買い求めるのが先ですよ。境内に入ると、浜五郎の仲間である与太郎とその妻がお迎えしてくれるかもしれません。(完)


 興味津々、姪の浜の住吉神社に出かけた。江戸時代を彷彿とさせる旧唐津街道の宿場である。境内に足を踏み入れると、思ったより広々としていて、本殿までの距離も結構なものだ。何より驚くのは、門を潜ってすぐのところで出迎えてくれる女カッパ。豊満な肉体と男ならすぐあらぬことを考えそうな胸のふくらみに、しばしうっとり。周囲に人がいないことを確かめると、すぐにカメラを向けた。


少しむかしの街道筋

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