2002年4月26日、ドイツ中央部の街、エアフルトでの出来事である。午前11時5分頃、黒い服に身を包み、黒い目出し帽を被り、ショットガンと自動拳銃で武装した男がグーテンベルク・ギムナジウム(我が国における中高一貫校)に侵入し、主に教師を標的にして銃を乱射し始めた。
スーザン・アルトゥング(14・生徒)
ロニー・モッケル(15・生徒)
アンネリーゼ・シュヴェルトナー(39・秘書)
ローズマリー・ハイナ(54・副校長)
カルラ・ポット(27・教師)
イヴォンヌ=ソフィア・フルシェ・ベーア(38・教師)
ブリジット・デトケ(39・教師)
ガブリエレ・クレメント(43・教師)
ハンス・リッペ(44・教師)
ハンス=ヨアヒム・シュヴェルトフェガー(44・教師)
モニカ・ブルクハルト(49・教師)
ヘルムート・シュヴァルツァー(54・教師)
ハイドラン・バウムバッハ(56・教師)
ハイデマリー・ジッカー(59・教師)
ペーター・ヴォルフ(60・教師)
犯人は教室の扉を開けると教師に銃撃し、生徒たちには関心を示さずに次の教室へと向かったという。それでも2人の生徒が犠牲になったのは、施錠された教室の扉を開けようとして、犯人が闇雲に発砲したからだ。
5分後、通報を受けた警察は学校を包囲した。その際に1人の警察官が窓から銃撃されて死亡している。
アンドレアス・ゴルスキ(41・警察官)
16人が死亡し、6人が負傷した。本件は今のところ、ドイツにおける最悪の大量殺人事件である。
警察官を射殺した直後、犯人は教師の一人、ライナー・ハイゼ(60)と会話を交わしている。ハイゼが近づいて来るのに気づいた犯人は、彼の前で目出し帽を脱いで素顔を見せた。ハイゼは思わず叫んだ。
「ロベルトか!? ロベルトなのか!?」
ロベルト・シュタインハウザー(19)はかつての生徒だった。だが、2001年10月に退学処分になっていた。ズル休みをした口実にニセの診断書を提出したためだった。
ハイゼは彼を怖れることなく、このように告げたという。
「さあ、俺を撃て。だが、ちゃんと顔を見ながらな」
だが、ロベルトは撃たなかった。かつての恩師の勇敢な態度に心を動かされたのかも知れない。彼はこのように応えた。
「今日はもう十分ですよ、ハイゼ先生」
この後、ハイゼはロベルトを空き部屋に押し込み、鍵を掛けた。間もなくロベルトは自らの頭を銃で撃ち抜いて自殺した。
ロベルト・シュタインハウザーは退学処分になったことを恨んでいた。そのためにロクな仕事に就けなかったからだ。犯行動機は学校への復讐以外の何物でもない。
また、彼が『カウンターストライク』というシューティング・ゲームの影響下で犯行に及んだ旨を指摘する声もある。私はこのゲームはプレイしたことがないが、確かに黒ずくめに目出し帽という姿は、このゲームに登場するテロリストにそっくりである。
(2013年1月18日/岸田裁月) |