それは余りにも奇妙な事件だった。
1980年4月10日、マサチューセッツ州マーシュフィールドにおいて、ジェイムス・リーヴァ(23)は車椅子の祖母、カーメン・ロペス(74)を殺害した。金色に塗った弾丸を4発撃ち込み、その心臓にナイフを突き立てて血を啜り、仕上げに彼女の体に火を放ったのである。
いったい何のために?
リーヴァ曰く、
「祖母は吸血鬼でした。そして、彼女に血を吸われたことで私も吸血鬼になってしまったのです」
リーヴァがおかしくなり始めたのは13歳の頃からだった。吸血鬼に魅了され、残酷な絵を描くようになった。やがて小動物を殺し、その血を啜った。馬を殺したこともあるという。
1975年から78年にかけて、彼は繰り返し精神医療施設に収容されている。診断は統合失調症だった。しかし、彼は自らが吸血鬼だと信じ続けた。
「もう700歳なんですよ。祖母のせいでこうなってしまいました」
「あの日、祖母を殺せとの声を聞きました。それに従っただけなんです」
ここで思い出されるのが、
ジョージ・A・ロメロ監督の映画『マーティン』である。マーティンは吸血鬼であるにも拘らず、見た目は何処にでもいる若者で、吸血鬼特有の牙もない。彼は獲物をクロロホルムで眠らせて、手首を剃刀で切って生き血を啜る。彼はそのことに罪悪感を感じている。どうして俺は吸血鬼なんだろう、と。
リーヴァの場合がまさにそれだ。彼は吸血鬼であることに罪悪感を感じ、その元凶である祖母を殺害したのだ。すべてが彼の妄想だったのだが。
ジェイムス・リーヴァは祖母の殺害及び放火の容疑で有罪となり、終身刑を宣告された。吸血鬼でないことに気づき、ちゃんと更正して頂きたい。
(2012年12月1日/岸田裁月) |