2006年9月27日、コロラド州デンバー近郊の町、ベイリーでの出来事である。午前11時40分頃、フード付きの黒いスウェットシャツを着た中年男がプラット・キャニオン高校に侵入し、サンドラ・スミスが担当する特別英語クラスに強引に踏み入ると、天井に拳銃を発砲してこのように叫んだ。
「全員、黒板を背にして立て!」
青天の霹靂とはまさにこのことである。
「このバックパックの中には爆弾が入っている。舐めた真似をすると爆発させるから覚悟しろよ!」
やがて男は教師と男の生徒を解放し、女の生徒6人を人質に取って教室に籠城した。
間もなくSWATチームが学校と取り囲み、電話による交渉が行われたが、まったく捗らなかった。男の云うことは支離滅裂で、目的がさっぱり判らないのだ。それでも交渉人はどうにか4人の生徒を解放させることに成功した。しかし、男のこんな言葉が気になった。
「午後4時になったら交渉は打ち切りだ」
男は午後4時になったら人質を道連れにして死ぬ気ではないだろうか?
SWATが強行突入を打って出たのは午後3時45分のことだった。その際に人質の一人、エミリー・キーズ(16)が男のもとから逃げ出した。男は彼女の頭を背後から撃ち抜いて殺害すると、自らのこめかみに銃口を当てて自殺した。
バックパックからは爆発物は発見されなかった、すべてが彼のハッタリだったのだ。
男の正体はデュアン・モリソン(53)というケチな前科者だった。やがて捜査官は彼の筆による遺書を押収した。目的が判らないのも道理で、これはこいつの迷惑な自殺だったのだ。
救出された人質によれば、彼女たちは性的な虐待を受けていたという。思うに、このバカは死ぬ前に女子高生にイタズラしたいと考えていたのではないだろうか? だとすればトンデモなく卑劣な男だ。地獄で永遠に苦しむがよい。
(2013年1月29日/岸田裁月) |