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１９８０年８月１１日、オハイオ州アクロン近郊の自宅玄関でディーン・ミロの遺体が発見された。彼は白い半ズボンだけを身につけた姿で俯せに倒れていた。死因は後頭部と襟首への銃撃である。遺体の頭の上には、銃弾が貫通した（但し、１発だけ）黄色いクッションが置かれていた。おそらく、犯人はこれをサイレンサー代わりに使ったのだろう。また、遺体のそばには何故か白紙の電報が落ちていた。
ちなみに、ディーンの妻と子供たちはフロリダに旅行中だった。
ディーン・ミロは化粧品会社「ミロ・バーバー・アンド・ビューティー（Ｂ＆Ｂ）」の社長だった。そして、その強引且つ独断的な経営方針から多くの敵が存在していた。同業者や従業員だけでなく、肉親からも怨まれていたのである。
そもそも「ミロＢ＆Ｂ」はディーンの両親、ソティア・ミロとカティーナがアクロンに開業した個人経営の店舗だった。それを年商４６００万ドルもの大企業に成長させたのが他ならぬディーンだったのだ。弟のフレッド・ミロと妹のソフィーも経営に参加していたが、彼らの発言権は無きに等しかった。
１９７５年、父親が引退し、ディーンが社長の地位に納まると、その独断性は顕著になった。逆らう従業員は即解雇。フレッドやソフィーでさえも関連会社に飛ばされてしまった。
１９８０年春、ディーンはフレッドとソフィーに持ち株の買い取り話を持ち掛けた（兄弟の持ち株比率はこの時点では平等だった）。つまり、ディーンは２人を追い出して「ミロＢ＆Ｂ」の利益を独占しようとしていたのだ。彼らが兄のことを殺したいほど憎んでいたとしても何ら不思議ではない。しかし、関与を裏づける証拠は何もない。捜査は一向に進展しなかった。
業を煮やしたディーンの妻は、私立探偵のビル・ディアを雇って事件を捜査させた。間もなくディアはこのようなタレ込みを得た。
「事件の数週間前のことだ。テリー・リー・キングというストリッパーから殺しを依頼されたんだ。もちろん断ったがね」
テリーの身辺を調べると興味深いことが判明した。彼女はフレッド・ミロの顧問弁護士、バリー・ボイドと知り合いだったのだ。
この情報を受けて逮捕されたボイドは関与を認めた。
「確かに私はフレッド・ミロから兄の殺害を依頼されました。そこで以前に弁護したことのあるテリーに請負人を探してもらったのですが、結局、見つかりませんでした」
この線からの実行犯の絞り出しには失敗したが、フレッドが兄の殺害を画策していたことは間違いないようだ。
ディアの地道な調査により、フレッドはボイドだけでなく、トニー・リドルにも殺しを依頼していたことが判明した。彼は「ミロＢ＆Ｂ」の元従業員で、ディーンによって解雇されていた。つまり、ディーンを怨む気持ちはフレッドと同様だったのだ。
捜査官はハリー・ノットとジョン・ハリスいう２人の仲介人を経由して、ようやく実行犯であるデヴィッド・ハーデンに辿り着いた。彼は６００ドルで殺しを請け負ったのだが、ハリスが受け取った報酬が２万２千ドルだったことを知り、そのピンハネ率にブチ切れて、すべてを告白したのである。
「あの日、ジョン・ハリスがボーリング場から電話を掛けて、ディーン・ミロが自宅にいることを確認しました。夫人や子供たちが不在なことは予め判っていたので、犯行は簡単でした。私は郵便局員を装い、呼び鈴を押して、電報を受け取った彼を背後から撃ったのです。銃は綿で包むことで消音されていました。その後、近くにあったクッションで消音することで止めを刺しました」
彼の供述は殺害現場の状況とすべて一致していた。
かくして、兄殺しの容疑で有罪となったフレッド・ミロは、終身刑を云い渡されて、１９９８年に獄中で心臓発作を起こして死亡した。５３歳だった。
この事件に関与した人物は実に１１人にも及んだ。彼らはいずれも相応の罪で裁かれている。
ちなみに「ミロＢ＆Ｂ」は妹のソフィーとその夫が受け継いだが、スキャンダルだらけの会社が立ち直る筈もなく、間もなく倒産した。
（２０１２年１２月３日／岸田裁月） |