バリー・ルーカイティス
|
1996年2月2日、ワシントン州モーゼス・レイク在住のバリー・ルーカイティス(14)は「ワイルド・ウエスト・スタイルのガンマン」の衣装に身を包み、歩いてフロンティア中学校に向かったと参考資料にはあるが、まさか2挺の拳銃とライフルは剥き出しだったわけではあるまい。それでは途中で捕まってしまう。「黒いコート」も着ていたそうだから、その下に隠していたのだろう。
とにかく、彼が向かった先は5時限目の代数の授業だった。そこで彼は同級生のマニュエル・ヴェラ(14)とアーノルド・フリッツ(14)、そして教師のレオナ・ケアーズを射殺し、ナタリー・ヒンツ(13)に重傷を負わせた後、このように云い放ったと伝えられている。
「これで代数から解放されたぜ。だろ?」
(This sure beats the hell out of algebra, doesn't it ?)
間もなく銃声を聞きつけた体育教師のジョン・レーンが、自らが人質になることを申し出て、隙を見てバリーを拘束した。警察が駆けつけるまでの間、彼はバリーを拘束し続けていた。
バリー・ルーカイティスはイジメられっ子だった。写真で見る限り、端正な顔立ちの二枚目だが、内気だったのだろうなあ。また、当時の彼は家庭に問題を抱えていた。両親が離婚したのだ。彼自身もリタリンを処方されていたとの報告もある。精神的にヤバい状態にあったのだ。
バリーは後に「殺したかったのはマニュエル・ヴェラだけだった」と告白している。なんでも前日にオカマ呼ばわりされたのだそうだ。だったら彼だけ殺せばいいじゃねえか。だが、バリーにはマニュエルだけではなく、クラスごと襲う彼なりの理由があったのだ。
バリーはスティーヴン・キングの小説『ハイスクール・パニック(Rage)』(名義はリチャード・パックマン)の愛読者だった。バリーはあの小説の主人公、リチャード・デッカーになろうとして犯行に及んだのだ。
ちなみに、リチャード・デッカーが最初に殺したのは代数の教師だった。
また、バリーはパール・ジャムの曲『ジェレミー』のプロモーション・ビデオに影響されていた旨が指摘されている。最後にイジメられっ子のジェレミー君がクラスで拳銃自殺するのだが、ビデオではその辺りが曖昧で、恰もジェレミー君がクラスメイトを殺害したかのように描かれているのだ(実は、返り血を浴びただけだった)。MTVの規制で、直接的な自殺の描写を避けたためにそうなったのだが、いっそ自殺をきちんと描いていれば本件はなかったかも知れない。
他にも映画『ナチュラル・ボーン・キラーズ』や『バスケットボール・ダイアリーズ』の影響が指摘されている。14歳といえば多感な時期である。多くの作品に影響を受けるのも判る。しかし、どうして冷静に対処出来なかったのか? 『ハイスクール・パニック』は所詮、絵空事だし、『ジェレミー』は実際に自殺した少年への鎮魂歌だ。調べれば判るじゃないか。
ちなみに、スティーヴン・キングは『ハイスクール・パニック』を絶版にした。影響を受けた若者が犯行に及ぶことを憂慮したからだ。
かくして、バリー・ルーカイティスは3件の殺人と1件の殺人未遂等の容疑で有罪となり、2つの終身刑と205年の刑を宣告された。
(2012年11月17日/岸田裁月)
|