1922年3月14日早朝、ロンドンのホテルで元ロンドン州議会議長の未亡人、アリス・ホワイト(65)の遺体が発見された。彼女は自室の寝室で、頭部を鈍器で何度も殴打されていた。扉には強引に押し入られた形跡がなかったことから、犯人はホテル関係者と思われた。
従業員をかたっぱしから尋問した警察は、やがて一人の若者に行き着いた。給仕のヘンリー・ジャコビー(18)である。彼が語ったところによれば、
「そういえば、昨日の夜遅くに不審な二人組が廊下をこそこそと歩いているのを目撃しましたよ」
ならば、何故その時に上司に報告しないのだ? 尚も問い質すとジャコビーは次第にしどろもどろになり、遂には自らの犯行であることを告白した。
「盗みに入ろうとしたんです。いざという時のためにハンマーを持参していました。そして、たまたま鍵の掛かっていなかったホワイト夫人の部屋に侵入しました。深夜のことですから、夫人はもう眠っていると思ったんです。ところが、夫人は起きていました。騒がれそうになったので、動転した私はハンマーで彼女の頭を殴ってしまいました。今では申し訳なく思っています」
未成年者であったにも拘らず、ヘンリー・ジャコビーは死刑を宣告されて、同年6月5日に処刑された。その背景には少年犯罪の増加への配慮があったのかも知れない。つまり、見せしめである。
(2012年10月22日/岸田裁月)
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