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カール・フォン・コーゼル
Carl von Cosel
a.k.a. Carl Tanzler (アメリカ)



エレナの写真に見入るコーゼル

 カール・フォン・コーゼルこと本名カール・テンツラーは、1877年2月8日にドイツのドレスデンで生まれた。1920年に結婚し、2人の娘を儲けている。1926年にはオランダ発キューバ経由でアメリカに入国、フロリダ州ザファーヒルズに定住した。ところが、翌年には妻と娘を捨てて蒸発し、フロリダ半島の最南端、キーウェストのマリーン・ホスピタルでレントゲン技師としての職を得る。その際に用いた偽名が「カール・フォン・コーゼル」だったというわけだ。
 と、ここまでの経緯は本件とは殆ど関係がない。物語が始まるのはここからだ。なお、本件は殺人事件ではない。初老の男と死体との愛の物語である。

 それは1930年4月のことだった。コーゼルはマリーン・ホスピタルに通院するうら若き乙女に一目惚れする。エレナ・オヨス。20歳のキューバ移民だった。
「なんて美しい女性なんだ! 彼女は私の妻になるために生まれて来たに違いない!」
 なんて激しい思い込みだ。それにお前には既に妻も子供もいるじゃないか。それを捨てて何をほざくか、この色ボケが。おまけに年の差を考えろ。33歳も離れているのだぞ。
「恋は盲目」とはまさにこのこと。コーゼル爺さんは彼女に果敢にアタックした。ところが、悲しきかな、エレナは末期の結核を患っていた。既に結婚していたが、そのために離縁同然になっていたのだ。
 これを受けて、コーゼルは彼女に声高々に宣言した。
「私があなたの病いを治してみせます! その暁には、私と結婚していただけますか!?」
 この怒濤の求愛を前にして、エレナとしては「は…はい」としか答えようがなかった。

 かくしてエレナの実家を舞台にして、コーゼルの「治療行為」が始まった。彼には医師の資格がない筈なので、これは明らかに違法行為である。根拠不明の投薬のほか、彼が「発明」した珍奇な電気器具が「治療」に用いられたという。まさに「マッド・サイエンティスト」と呼ぶに相応しい所業である。エレナは治る筈がなく、1931年10月25日に死亡した。22歳だった。



エレナのデスマスクに見入るコーゼル


変わり果てたエレナの遺体

 エレナの実家は貧しかった。コーゼルはその葬儀代を支払い、
「彼女が土の中で朽ち果てるのは忍びない」
 と、霊廟を建築し、その中に彼女の遺体を安置した。コーゼルは毎日、霊廟の前で跪き、エレナと「対話」していた。すると或る日、彼女はコーゼルにこう云った(コーゼル談)。
「ここから出して。私はあなたと一緒にいたいの」
 そうか、そうか。やっぱりワシと一緒にいたいのか。コーゼルはエレナの霊廟を暴き、棺から彼女の遺体を奪い去った。1933年4月のことである。

 死後1年半も経ているので、遺体の状況はヘロヘロだった。抱き締めればグズグズっといってしまうほどに腐敗が進行していた。そこでコーゼルは遺体を大量の防腐剤に浸し、皮膚を蝋と絹でコーティングした。はらわたを抜き取って綿を詰め込み、骨がバラけないようにピアノ線で補強した。抜け落ちた髪で作ったウィッグを被せ、仕上げに義眼をはめ込んで、はい、エレナの剥製の出来上がりである。
 否。コーゼルの仕事はまだ終わっていなかった。彼が目指すはエレナの「蘇生」だったのだ。テスラ・コイルを応用した珍奇な器具で電流を流し、その命を蘇らせようと努力していたのである。フランケンシュタイン博士の劣化バージョンだ。

 コーゼルの墓荒らしがバレたのは7年後、1940年10月のことだった。エレナの姉がこんな噂を耳にしたのだ。
「コーゼルという男は毎晩、死体と寝ているらしい」
 まさかと思ってコーゼルの家を訪ねると、変わり果てたエレナの遺体を見つけてうぎゃあ。かくしてコーゼルは墳墓発掘と死体損壊の容疑で逮捕されたのである。

 事件はマスコミによりセンセーショナルに報道されたが、世論は概ねコーゼルに好意的だった。たしかに、事件そのものは猟奇的だが、初老の男の純愛に胸を打たれたのだ。「ええ話やね」といったところか。
 間もなくコーゼルはお咎めなしで釈放された。というのも、彼が墓を荒らしたのは7年も前のことであり、公訴時効(当時のフロリダ州では2年)をとっくに過ぎていたのだ。

 その後、コーゼルは妻がいるザファーヒルズに移り住み、パルプ誌の取材を受けたり、手記を発表したりして余生を暮らしていたようだ。
 その死が確認されたのは1952年7月3日のことだった。独り暮らしの自宅で遺体となって発見されたのだ。死後3週間は経過していたという。今で云うところの「孤独死」である。
 否。彼は孤独ではなかった。遺体の傍らにはエレナのデスマスクを被った等身大の人形が横たわっていたのである。彼は最後の最後まで、エレナと共に暮らしていたのである。
 ええ話やね。

 と、このままで終われば、コーゼルの物語は美談として語り継がれたことだろう。ところが、20年後の1972年、エレナの検視解剖を担当した医師がインタビューに応じ、ロマンティックな部分をぶち壊してしまった。

「その乳房は恰も本物のような触感でした。膣の部分にはチューブが組み込まれており、性交が可能な状態でした。チューブの奥には綿がありました。そこには精液が付着していました」

 ありゃりゃ。屍姦していたのだ。純愛どころか、屍姦マニアのド変態だったのである。

(2011年12月16日/岸田裁月) 


参考資料

http://en.wikipedia.org/wiki/Carl_Tanzler
http://www.trutv.com/library/crime/serial_killers/notorious/necrophiles/story_6.html
http://www.voltini.com/id43.htm
http://www.angelfire.com/magic/scotlass/voncosel.html


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