盲人が殺人容疑で有罪になった極めて稀有な事例である。
1800年3月24日午後2時頃、ノッティンガムで見回りをしていたジョン・ロビンソンは、川辺に俯せで倒れている男の姿を発見した。
「おい、どうしたんだ!?」
声を掛けると、男はむっくりと起き上がった。どうやら盲人のようだ。ジェイムス・ブロディー(23)。彼が語ったところによれば事情はこうだ。
「私は御覧の通りの盲人で、補佐の少年がいたのですが、道に迷ってしまいました。昨夜は一晩中彷徨い歩き、その過程で少年が死亡して、私はこうしてここに辿り着いたのです」
えっ? 何で死んだの?
「木に登って道を探そうとしたんです。でも、落ちてしまった。彼は酷く傷ついて、虫の息でした。夜は深けて、寒さも増していました。私は辺りの落ち葉を集めて彼の身体を覆い、なんとか助けようとしましたが叶いませんでした」
間もなくブロディーの証言の通り、3マイルほど離れた場所でロバート・セルビー・ハンコックの遺体が発見された。頭蓋骨が割れて顔面が血みどろだ。とても木から落ちただけとは思えなかった。
おそらく盲人が杖で打ち据えたのだろう。
かくしてジェイムス・ブロディーは殺人容疑で有罪となり、死刑を宣告されて、同年7月15日に絞首刑により処刑されたわけだが、果たしてこれは正しい裁きだったのか? 資料が少ないので何とも云えないが、冤罪の可能性が濃厚である。また、仮に彼の犯行であったとして、その動機はいったい何だったのか? 謎が多い事件である。
(2012年10月5日/岸田裁月)
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