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リンドバーグ・サンダース
Lindberg Sanders (アメリカ)



メンフィス、シャノン・アヴェニュー2239

 1983年1月10日、テネシー州メンフィスでの出来事である。地元警察に1本の電話が入った。なんでも引ったくりの件で耳寄りな情報があるから来て欲しいというのだ。早速、巡回中の巡査2名がシャノン・アヴェニュー2239の家に出向くと、薮から棒に中から撃って来やがった。至急に仲間を呼んで4人で応戦すれども、敵の方が数が多い。3人は這う這うの体で逃げ出したが、ロバート・ヘスター巡査(34)は人質に取られてしまった。

 こいつらの目的はいったい何なのか、この時点ではさっぱり判らなかった。間もなく武装警官が問題の家をぐるりと囲み、ヘスター巡査の無線で交渉を重ねるうちに動機らしきものがぼんやりと見えて来た。こいつらはイカれたカルトにハマっていたのだ。
 リーダーは「ブラック・ジーザス」を自称するリンドバーグ・サンダースという49歳のイカレポンチである。10年ほど前から統合失調症を患い、その筋の病院を出たり入ったりしている。そんな男にも26歳の息子を含む6人の信者がおり、この名もなきカルトを運営していたのだ。そして、リーダーがハルマゲドンを予言したのは4日前の1月7日のことだ。曰く、
「1月10日に月が落ちて来て、私の教えを守らない全ての人類を抹殺する」
 ところが、月は落ちて来なかった。そこで苦し紛れに云い逃れをした。
「月が落ちて来なかったのはアンチ・クライストが来臨したからであり、警官はその使者である」
 これを受けて「何ならその使者とやらをぶっ殺しましょうぜ」ってな流れの中で起こった事件だったのだ。
 カルトって怖いね。

 籠城は2日間にも及んだ。キ印が相手なのでまとまる話もまとまらない。やがて無線のバッテリーが切れて、交渉不可能の状態に陥る。家の中からはヘスター巡査の悲鳴が聞こえて来る。如何ともし難い状況に同僚たちのイライラは最高潮に達していた。と、その時、家の内部を盗聴していたブーム・マイクがサンダースのこのような声を拾った。
「悪魔が死んだ」
 このことはつまりヘスター巡査が死亡したことを意味していた。これを切っ掛けに武装警官が内部に突入し、サンダースを含む7人を皆殺しにしたのである。このことをもって警察の横暴と捉える向きもある。しかし、考えてもみて欲しい。悪いのはどう考えてもサンダースの方なのだ。同僚の仇を取る行為は人間性の自然な発露と私は考える。

 なお、シャノン・アヴェニュー2239の問題の家は今もなお現存しているようだ。グーグルのストリートビューで諸君も確認して欲しい。(住所:2239 Shannon Ave, Memphis)

(2009年5月11日/岸田裁月) 


参考資料

『現代殺人百科』コリン・ウィルソン著(青土社)


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