ジョブ・コープス(Job Corps)とは、16歳から24歳までの若者を対象に無償の職業訓練を行い、その就職を支援する公的なプログラムである。参加者の多くは貧しい若者だ。そして、崩壊家庭で生まれ育ち、ハイスクールを中退していたクリスタ・パイク(18)も、テネシー州ノックスビルのジョブ・コープスに参加していた。
やがて彼女は同じ寄宿舎に住む訓練生と恋仲になる。タダリル・シップ(17)という黒人の少年である。オカルト・マニアであった彼は、クリスタをその道に引きずり込んだ。悪魔のバイブルを読んで聞かせ、共に黒魔術の真似事を始めたのである。
タダリルと仲睦まじくなる一方で、クリスタはコリーン・スレマー(19)と対立するようになっていた。コリーンがタダリルに色目を使ったと信じ込んでいたのだ。そして。訓練生たちに吹聴した。
「いつかあいつに焼きを入れてやらなきゃね」
現実に焼きを入れたのは、1995年1月12日の夜のことである。クリスタは、
「仲直りのために一緒にマリファナをやりましょう」
とコリーンに持ち掛け、タダリルとシャンドラ・ピーターソン(18)の4人でテネシー大学の敷地内にある森へと向かった。そして、しばらくマリファナを回し飲みした後、クリスタが突然、コリーンの顔面を蹴り上げた。
「てめえ、うぜえんだよ! 色目使ってんじゃねえよ!」
そして、ポケットからナイフを取り出し、コリーンの腹に切りつけた。
いやいや、そりゃやり過ぎだって。
ところが、マリファナでハイになっている連中なわけだから、やり過ぎとの認識はない。その後、30分近くにも渡って3人はコリーンをナイフで切りつけた。そして、仕上げとしてコリーンの胸に悪魔の紋章たるペンタグラムを刻み込み、その周りで踊り狂ったという。
なんかの儀式のつもりだったのだろうなあ。
この時点ではコリーンはまだ生きていた。とどめを刺したのはクリスタだった。コンクリートのブロックでコリーンの頭を何度も何度も繰り返し打ち据えたのである。当然ながら、頭蓋骨は粉々に砕ける。その血みどろの破片を彼女は持ち帰り、翌日には友達に見せて自慢したというから呆れてしまう。何なんだ、この娘は?
3人が逮捕されたのは2日後のことだった。そりゃそうだろうな。殺したことを友達に自慢したりして、犯行を隠蔽する気がまるでないのだから。
かくして、クリスタ・パイクは当時のアメリカ合衆国における最も若い死刑囚となった。現在でも再審を争っているが、その素行の悪さゆえに認められる可能性は少ない。2001年8月24日には収監仲間の首を靴紐で締めたりして、殺人未遂の罪で有罪になっている。全く懲りないお子さまである。
一方、タダリル・シップには終身刑が下された。シャンドラ・ピーターソンは積極的に告白したために執行猶予になっている。
(2011年5月3日/岸田裁月) |