1986年10月11日、カリフォルニア州コスタ・メサ在住のサンドラ・ニアリー(32)はATMで現金を引き出すために家を出た。そして、それっきり帰って来なかった。2週間後の10月24日、彼女の遺体が40kmほど離れた林の中でハイカーにより発見された。死因は絞殺だった。
4日後の10月28日、アリゾナ州ブルヘッド・シティ在住のパメラ・シモンズ(35)が行方不明になった。彼女もまた国道沿いのATMで現金を引き出した直後に誘拐されたものと思われた。
10日後の11月7日、カリフォルニア州レッドランズ在住のコリナ・ノーヴィス(20)が行方不明になった。彼女もまたショッピングモールのATMで現金を引き出した直後に誘拐されたものと思われた。
5日後の11月12日、カリフォルニア州オレンジ・カウンティのクリーニング店に勤務するライネル・マーレイ(19)が行方不明になった。翌日、彼女の遺体がハンティントン・ビーチのモーテルで発見された。全裸で、性的に虐待されていた。死因は絞殺だった。
地元警察は既に犯人の目星をつけていた。数日前にラグナ・ニゲルのゴミ箱から、犯人が捨てたものと思われるファストフードの紙袋が押収されていたのだ。中に入っていたのはコリナ・ノーヴィスの小切手帳と、ジェイムス・マーロウ(29)とシンシア・コフマン(24)の名前が記された書類だった。共に前科がある流れ者だ。おそらく金に困って犯行に及んだのだろう。
間もなく、サン・バーナディーノのモーテルから通報があった。
「部屋を掃除していて不気味なものを見つけました。先ほどテレビで殺されたと報道された娘さんの名前がびっしりと書かれた便箋です」
マーロウとホフマンは昨晩、このモーテルに投宿していたのだ。そして、ライネル・マーレイの小切手を偽造するために、その署名の練習をしていたのである。
翌日の11月14日、ビッグ・ベア・シティの山荘から通報があった。
「指名手配中のカップルが今、うちに泊まっています」
100人からの武装警官が現地に急行した。そして、呑気にハイキングと洒落込む極悪非道のカップルを捕縛した次第である。その時に彼らが着ていたのは、ライネル・マーレイが勤めていたクリーニング店から盗んだ衣類だった。
マーロウとコフマンは共に4件の殺人で有罪となり、死刑を宣告された。カリフォルニア州で女性が死刑を宣告されるのは、1977年に死刑が復活して以来、初めてのことである。
ちなみに、コフマンの臀部にはこのような刺青があったという。
「私はフォルサム・ウルフの所有物です」
(I belong to the Folsom Wolf.)
「フォルサム・ウルフ」とは、カリフォルニア州フォルサム刑務所に服役していたマーロウの綽名である。
(2011年4月28日/岸田裁月) |