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ジェフリー・フェルトナー
Jeffrey Feltner (アメリカ)


 

 1988年7月、フロリダ州のローカルテレビ局は匿名の電話を受けた。
「私はメルローズの老人介護施設で5人の老人を殺した。間もなくもう1人殺すつもりだ」
 同じ日に緊急救助センターも「ジェフ」と名乗る男から同じ内容の電話を受けていた。
 その施設には「ジェフ」という名の職員が1人だけいた。看護助手のジェフリー・フェルトナー(26)。身長160cm、体重45kgの小男だ。とても殺人を犯すような人物には見えなかった。施設内での評判もよく、誰からも信頼されていた。
 また、施設内での不審死も確認されなかった。たしかに、ここ数ケ月の間に5人ほど死んではいたが、いずれもかなりの高齢で、しかも病に伏していたのだ。担当医曰く、
「どう見ても自然死でしたよ。外傷はありませんでした」
 なんだよ、イタズラ電話かよ。捜査官は胸を撫で下ろしつつも、念のためにジェフリーを尋問したところ、
「はい。たしかに電話を掛けたのは私です」
 なんでウソの電話なんか掛けたんだ?
「介護施設における劣悪な環境の実態に世間の耳目を集めたかったのです」
 そういうことは他の手段でやっておくれよ。虚偽の申告も罪になるんだからな、ということで、さんざん油を絞られたジェフリーは、その後の4ケ月間を獄中で過ごすのだった。

 出所後、デイトナビーチに移り住んだジェフリーは、再び老人介護施設の職に就く。その数ケ月後、またしても匿名の電話がローカルテレビ局や緊急救助センター、保健精神衛生局等、様々な機関に掛かり始めた。
「私はデイトナビーチの老人介護施設で2人の老人を殺した。合計で7人だ。いずれも窒息死だった」
 中にはジェフリーとは別の男からの通報もあった。その男はジェフリーの同棲相手(つまり恋人)だった。ジェフリーから殺しの話を聞き、良心の呵責に堪えきれずに通報したのだ。

 ジェフリー・フェルトナーは1989年8月に逮捕された、このたびの容疑は虚偽申告ではない。第一級殺人である。火葬に付されずに埋葬されたサラ・エイブラムス(75)の遺体を解剖した結果、死因が窒息死であることが判明したからだ。
 取調べにおいてジェフリーは、犯行の手口をこのように語った。
「まず老人が寝たのを確認すると、その上に跨がって動けないようにします。そして、外科用の手袋をはめた手で口を塞ぎ、鼻をつまむのです」
 なるほど。これでは外傷は残らない。その動機は「苦痛からの解放」だったという。
「私が殺した老人はいずれも末期的な病気に苦しんでいました。彼らを救うには殺すより他に途がなかったのです」
 犯行当時、ジェフリーは既にHIVに感染していた。このことが彼に犯行を促したのかも知れない。

 裁判においてジェフリーは前言を翻して無罪を主張した。拘置所内で手首を切って自殺を図ったりもしたが、最終的に第一級殺人で有罪となり、終身刑が云い渡された。フロリダ州では少なくとも25年は仮釈放は認められない。

 それにしてもよく判らないのは、どうして自ら通報したかである。この点、彼の家族は「ジェフリーはHIVに感染した我が身を犠牲にして介護施設の劣悪な環境告発した。実際には無実である」と主張しているというが、その真相や如何に?

(2009年12月17日/岸田裁月) 


参考文献

『SERIAL KILLERS』JOYCE ROBINS & PETER ARNOLD(CHANCELLOR PRESS)
http://www.nytimes.com/1990/01/10/us/a-nursing-aide-admits-killing-elderly-patient.html


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