1994年4月、マドリードの精神医療施設から2人の男が脱走し、2日後にうちの1人、ヴィクトル・ルイス・クリアドの遺体が発見された。頭を叩き割られた上に焼かれていた。
間もなく、もう1人の男が救急病院に搬送された。どうやら自殺を図って、走行中の車に飛び込んだらしい。しかし、脚を折るに留まったのだ。男はやがて看護婦にクリアドの件を含む14件の殺人を告白した。
「警察を呼んでくれ。俺は罪深い男だ」
かくしてフランシスコ・ガルシア・エスカレーロは逮捕された。彼の犠牲者は主にホームレスだった。故に「乞食殺人鬼(El Matamendigos)」と呼ばれている。
エスカレーロは1954年5月24日、マドリードで生まれた。実家は極めて貧しかった。父親から虐待される毎日。一人で墓場を彷徨うことが何よりの娯楽だった。
生き残るために彼は盗みを働かなければならなかった。いわゆる「ストリート・チャイルド」というやつである。繰り返し鑑別所に収容されて、出ては窃盗を繰り返した。そして、1975年に少女をボーイフレンドの前で強姦した容疑で有罪となり、12年の刑が下された。
釈放されたのは1984年のことである。もういい年のおっさんだ。「ストリート・チャイルド」ではなく「ホームレス」もしくは「乞食(スペイン語で「mendigo」)」に昇格したというわけだ。そして、朝から晩まで酒を呷り、ドラッグ三昧の日々を送る中で、次第に「声」が聞こえ始めた。
「殺せ。殺せ。殺せ。殺せ」
それに従い、彼はホームレス仲間を殺した。刺し殺す時もあれば、岩で頭を叩き割ることもあった。去勢することさえあった。また彼は墓場に出向いて屍姦や食人を試みたことも告白している。真実か否かは定かではない。なにしろクルクルパーだからね。
かくしてエスカレーロは11件の殺人容疑で起訴されたが、精神異常であることが認定されて、精神医療施設に収容された。彼がまた娑婆に戻ることがないことを祈るばかりだ。
(2011年4月2日/岸田裁月) |