寺院から運び出される遺体 |
アリゾナ州フェニックスの西30km、ルーク空軍基地の近くに仏教寺院がある。以下がその住所である。
「17212 West Maryland Avenue, Waddell, Arizona」
Googleマップの地図には載っていないが、航空写真に切り替えると赤い屋根の建物が2つ見える。これがワット・プロムクナラム寺院である。
1991年8月9日深夜、この寺院に何者かが押し入り、タイ出身の6人の僧侶と1人の尼僧、そして2人の修行僧の計9人を殺害した。第一発見者はここに勤務する用務員だった。
遺体は居住棟の居間で、恰も車輪のスポークのように輪になって、俯せに倒れていた。いずれも後ろ手に縛られて、背後から頭を少なくとも2発撃たれていた。彼らの命を奪ったのは同じ22口径のライフルだが、中にはショットガンで腕を負傷している者もいた。つまり凶器は2つあったことになり、このことは複数人の犯行であること物語っていた。
遺体の輪の中心には吸い殻で溢れた灰皿があった。僧侶たちは煙草を吸わないので、おそらく犯人が吸ったのだろう。また、テーブルの上にはいくつもの鍵が置かれていた。
奇妙なのは、小火が起きたわけでもないのに2つの消火器が屋内に撒き散らされてことだ。そして、壁にはナイフで「bloods」と彫られていた。
以上の事実を踏まえてのプロファイラーの所見は「少年による犯行」というものだった。不良少年はよく面白半分で消火器を撒き散らす。動機はおそらく物盗りだ。事実、カメラや装身具が失われていた。鍵を集めたのは、金庫の鍵を探していたのだろう。
捜査が進展しないまま1ケ月が過ぎた9月10日、フェニックス警察はツーソンからの通報を受けた。電話の主はマイケル・マッグロウという24歳の青年だった。曰く、
「実は私は仏教寺院の事件と関係しています」
早速、出向いて尋問したところ、マッグロウは4人の男の名を挙げた。そして告白した。
「私たち5人はあの晩、仏教寺院に侵入し、僧侶たちを殺しました」
警察は残りの4人もしょっぴいて厳しく尋問したところ、犯行への関与を認めた。いずれもツーソンではならず者として知られている人物だった。これで事件は一件落着したかに思われた。ところがどっこい、アリバイにおいて問題が生じた。申告者たるマッグロウが事件の晩に勤務先にいたことが防犯ビデオにより証明されてしまったのである。
えっ? どういうこと?
他の4人(マスコミにより「The Tucson Four」と命名された)も次々に供述を翻し、自白を強要されたと主張した。凶器の銃も発見されていない。彼らを訴追することは不可能に思われた。
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