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ロナルド・デフェオ
Ronald "Butch" DeFeo Jr. (アメリカ)



惨劇の舞台となった家


ロナルド・デフェオ

 1974年11月13日、ニョーヨーク州ロングアイランドの閑静な住宅地アミティヴィル。午後6時30分頃、地元の若者たちがいつものように居酒屋で飲んでいると、ロナルド・デフェオ(23・通称ブッチ)が駆け込んで来るなり叫んだ。
「助けてくれ! 家族が撃たれた!」
 オーシャン・アベニュー112番地にあるその家の中では、ブッチを除いた一家が皆殺しにされていた。



 2階:ロナルド・デフェオ・シニア(43)
    ルイーズ・デフェオ(42)
    アリソン・デフェオ(次女・13)
    マーク・デフェオ(次男・12)
    ジョン・デフェオ(三男・9)



 3階:ドーン・デフェオ(長女・18)

 いずれもそれぞれの寝室のベッドの上で俯せに倒れていた。背中を撃たれていることから、その日の未明に就寝中を襲われたものと思われる。但し、アリソンだけは顔を撃たれていた。おそらく彼女だけは起きていたのだろう。凶器は35口径のレバー式マーリン・ライフルだった。

 長男のブッチことロナルド・ジュニアは犯人の心当たりがあることを警察に明かした。
「自動車ディーラーをしていた父はルイス・ファリーニというマフィアの恨みを買っていました。彼の仕業に間違いありません」
 あり得ない話ではない。しかし、マフィアがライフルを使うだろうか?
 捜査が進むにつれて、ジュニアがガンマニアであること、そして凶器と同じライフルも所有していたことが判明した。また、彼はヘロインやLSDの常習者で、毎日のように飲んだくれては乱闘騒ぎを起していた。品行方正な若者ではなかったのだ。友人を銃で脅したこともあるという。そんな男ならば家族を殺すことも可能だろう。

 父親のロナルド・シニアは極めて暴力的な男だった。妻を殴るのは当り前、長男たるジュニアも殴られて育った。経済的には恵まれていたが、一家には愛情が欠けていたのだ。故にジュニアは酒や麻薬に救いを求めたのである。
 実は事件の数週間前、ジュニアはシニアにライフルを向けたことがある。母親が床に叩きのめされたのを目にしてカッとなり、衝動的にライフルを手にして引き金を引いたのだ、しかし、弾は入っていなかった。
「俺は家族を殺してしまうかも知れない…」
 怖くなったジュニアは家を出てガールフレンドのアパートに転がり込む。しかし、シニアに頼み込まれて渋々ながらも実家に戻る。その矢先の出来事だったのだ。



ジョン・デフェオの霊が写り込んだとされる写真

 法廷において弁護側は、被告は妄想性痴呆症であり、故に責任は問えないと主張した。これに対して検察は、反社会的な人格であることは間違いないが、それは麻薬の摂取に基づくものであり、精神異常とまでは云えないと主張。陪審員もこれに同意し、ロナルド・デフェオ・ジュニアには終身刑が云い渡された。

 なお、惨劇の舞台となった家は、後に『アミティヴィル・ホラー』の舞台としても広く知られることになる。1977年に出版されてベストセラーになったジェイ・アンソンによるホラー小説である。その映画化は『悪魔の棲む家』の邦題で我が国でも公開されたので御存知の方も多かろう。1年後に事件を知らずに引っ越して来たラッツ一家が心霊現象に苛まれる物語である。

《実話との触れ込みで、モデルになったジョージ・ラッツが家族そろってテレビに出演するなど社会現象となり、映画もそれなりにヒットした。ところが、怪現象の数々が「壁から変な液体が流れ出る」「奇妙な音がする」「地下室が臭い」等、全体的にショボくておはなしにならない。『世界まるみえ』とかの再現ドラマでならともかく、映画化するほどの話ではない》(拙著『最低映画館』より)

 今日ではアンソンの小説はまったくの創作、ジョージ・ラッツの証言も嘘八百であることが判明している。経済的に逼迫していた彼は、弁護士のウィリアム・ウェバー(彼はデフェオの弁護人だった)と組んで幽霊話をでっち上げたのである。
 そもそもラッツ一家が事件のことを知らなかった筈がない。当時、事件は全米で大々的に報道されていた。その僅か1年後の出来事なのだ。今でも『アミティヴィル・ホラー』を信じている人はおめでたいとしか云いようがない。2005年の再映画化に際して再び注目を集めた心霊写真(三男のジョンが写り込んだものと云われている)もインチキと云わざるを得ない。

註:問題の家は今もなお現存している。グーグルマップのストリートビューで付近を散策してみるのも一興だろう(住所:112 Ocean Ave Amityville, NY)

(2009年2月21日/岸田裁月) 


参考文献

『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)
『世界犯罪百科全書』オリヴァー・サイリャックス著(原書房)
『怪奇探偵の調査ファイル/呪いの心霊ビデオ』小池壮彦著(扶桑社)
『THE ENCYCLOPEDIA OF MASS MURDER』BRIAN LANE & WILFRED GREGG(HEADLINE)
『SERIAL KILLERS』JOYCE ROBINS & PETER ARNOLD(CHANCELLOR PRESS)


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