オーストラリアには「ロード・トレイン」と呼ばれるトラックがある。いくつものトレーラーを連結した、まるで貨物列車のようなトラックだ。鉄道網が整備されていない内陸部では今でも重宝されている。時には全長100mを越えることもあるというから、その馬力たるや如何ばかり。こんなモンスター・トラックを凶器として用いた男がいる。ダグラス・クラッブ(36)。いくら酔った上での犯行とはいえ、お前のやったことは気狂い沙汰だよ。
1983年8月18日、エアーズロックの通称で知られる巨大な一枚岩、ウルルにほど近いインランド・モーテルでの出来事である。クラッブが同モーテルのバーから叩き出されたのは午前12時30分頃のことだ。この男は酔うと必ず喧嘩をする。誠にタチの悪い男だった。
そのまますごすごと引き下がるような男ではなかった。一旦はトラックに乗り込み、近くのウルル・モーテルまで移動して、そこで2つのトレーラーのうちの1つを切り離した。その後、再びインランド・モーテルに取って返して、バーに目掛けて全速力で突進したのである。
バーの中には40人ほどの客がいた。うちの5人が死亡し、16人が重傷を負った。生存者によれば、クラッブは一旦トラックから降りて、瓦礫の中の犠牲者を一瞥してニヤリと笑ったという。そして、そのまま走り去った。
間もなくクラッブは現場から20kmほど離れたモーテルで逮捕された。そりゃすぐバレるよな。なにしろ彼奴は店の常連だったのだから。生存者曰く、
「誰の仕業かはすぐに判ったよ。あの野郎は毎週来ていたんだ。そいで、いつも酔っては管を巻く。あまり関わりたくはなかったね」
酔っていたんで憶えちゃいねえ。こんな抗弁が通る筈もなく(なにしろ、彼は事前にトレーラーの1つを切り離すという冷静な対処をしているのだ)、有罪となったクラッブには終身刑が云い渡された。
(2010年1月30日/岸田裁月) |