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リチャード・コティンガム
Richard Cottingham
a.k.a. The Torso Killer (アメリカ)



リチャード・コティンガム

 1979年12月2日、ニューヨークのミッドタウン、タイムズ・スクエア付近の安ホテルで火の手が上がった。現場に駆けつけた消防士は、火元となった1室のベッド上に横たわる異様なものを発見した。最初はそれが人間だとは思わなかった。なにしろ頭と手がなかったのだ。そんなものが2つもある。マネキンでないことは触ってみて判った。柔らかかったのだ。
 1体はクウェート出身の売春婦、ディーダ・グーダルジ(22)であることが判明した。しかし、もう1体は女性であることしか判らなかった。その身元は今日もなお謎のままである。

 捜査官は即座に1年ほど前の事件を思い出した。同年1月にタイムズ・スクエアで十代の売春婦ヘレン・サイクスが行方不明になり、間もなくクイーンズで遺体となって発見されたのだが、同じように頭と脚が切断されていたのだ。但し、この件では脚はまだ胴体に付いているかのように、隣り合わせて置かれていた。

 1980年5月5日にはニュージャージー側の安ホテルで、シェリー・ダドリーという売春婦の遺体が発見された。彼女は酷く殴られた上に絞殺されて、乳首を噛み切られていた。
 捜査官はまたもや類似の事件を思い出した。1977年12月15日に同じホテルでマリアン・カーという売春婦が殺されていたのだ。彼女もやはり殴られた上に絞殺されていた。
 マンハッタン界隈に凶悪な殺人鬼(売春婦専門)が潜んでいることは間違いない。しかし、それが1人なのか、はたまた複数なのかは、この時点では知る由もなかった。

 10日後の5月15日にはタイムズ・スクエア付近の安ホテルで、ジーン・レイナーという売春婦が殺害された。彼女はナイフで滅多刺しにされた上、乳房を切り取られていた。

 1週間後の5月22日、同じホテルからの通報によりリチャード・コティンガム(33)が逮捕された。彼は売春婦をホテルに連れ込み、手錠でベッドに拘束して虐待していたのだ。その叫び声を耳にした客の1人が通報したのである。

 コティンガムはこの手の犯罪とは最も無縁の男に思えた。3人の子の良き父親で、健康保険組合の優秀なコンピューター・オペレーターとして13年間勤め上げた男を、いったい誰が凶悪な殺人鬼だと思うだろうか。
 ところが、ニュージャージー州ロディの自宅を捜索した警察は、彼が一連の殺人鬼であることを確信した。手錠や革製の猿轡、首輪といったボンデージ用品が続々と押収されたのだ。また、被害者から奪い取った戦利品の数々も発見された。
 コティンガムは現在、離婚調停中であることも判明した。理由はDVとセックスレスである。つまり、この男は女を拘束し、虐待することでしか
勃起できなくなっていたのだ。そして、妻がその要求に答えてくれないことへの不満から犯行に及んだのである。

 かくして5件の殺人他諸々の罪で裁かれたコティンガムには終身刑が云い渡されたわけだが、仮釈放があり得る以上、終身刑では些か軽過ぎるようにも思える。

(2009年4月20日/岸田裁月) 


参考文献

『連続殺人紳士録』ブライアン・レーン&ウィルフレッド・グレッグ著(中央アート出版社)


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