リチャード・アンジェロ |
ニューヨーク州ロングアイランドのグッド・サマリタン・ホスピタルでの出来事である。
「Good Samaritan Hospital1000 Montauk Highway West Islip, NY 11795, USA」
ここに看護士として勤務するリチャード・アンジェロ(26)は、とにかくヒーローにワナビーの男だった。少年時代にはボーイスカウトに専念し、最高位たるイーグルスカウトの章を授かった。自警消防団にも積極的に参加していた。ところが、看護士としての日々はパッとしない。否。むしろ足を引っ張るばかりだ。もたもたしているのだな。不器用な彼は、看護士のような繊細な仕事には向いていなかったのだ。
本来ならば転職するのが筋なのだが、アンジェロはそうはしなかった。
「いいや、俺はこの医療の場でもヒーローになってみせる。そして、同僚たちから称賛されるんだ」
で、患者に毒を盛ったのだな。危篤状態に陥れて、それをテキパキと処理して蘇生させて、ヒーローになることを企んだのだが、残念なことに大失敗に終わった。彼が関わった「コード・ブルー(緊急救命)」は37件。うちの25件が死亡した。つまり、己れの不手際で25人も殺しちまったというわけだ。
アンジェロの悪事が発覚したのは1987年10月11日のことである。呼吸不全に陥り、緊急救命処置により蘇生した患者がかく申し立てたのだ。
「髭の看護士が点滴に薬物を投与した直後におかしくなった」
「髭の看護士」といえばアンジェロである。彼のロッカーを捜索したところ、筋弛緩剤たるパンクロニウムが発見された。患者の尿からもパンクロニウムが検出された。かくして「ヒーローになりたかった男」は逮捕された。
結局、リチャード・アンジェロは2件の第二級謀殺と1件の故殺、1件の過失致死と6件の暴行で有罪となり、61年の刑が宣告されるに留まった。証拠がなかったのだ。だが、彼が少なくとも10人の尊き命を奪ったことは間違いないとされている。まったくトンデモねえ野郎である。
(2011年4月23日/岸田裁月) |