「murder-uk.com」というサイトで紹介されていた事件である。しかし、その裏を取ることは出来なかった。いくらネットで検索すれども、この事件に関する記事が他に見つからないのだ。故にガセネタである可能性もある。だが、ボツにするのは惜しいので、こうして紹介することにする。まあ、話半分でお読み下さい。
記事は「A strange case of 'murder by request'.(『嘱託殺人』の奇妙な事件)」の一文で始まる。この時点で既に面白そうだ。
舞台はサウス・ロンドンの町、トゥーティング。記事の冒頭でウィリアム・ネルソン・アダムスという17歳の少年が、ジョージ・ジョーンズという60歳の老人と親しくなった旨が明かされる。どうして親しくなったのかは詳らかではないが、とにかくジョーンズはアダムスを家に招き、食事や飲み物(おそらく酒)を振る舞っていた。
あ、云い忘れていたが、これは1919年の事件である。第一次世界大戦が終結して間もない頃のことだ。
で、その年の6月10日、ジョーンズとアダムスはパブに飲みに出掛けた。そして、その帰りにアダムスがあろうことか、ジョーンズの胸と喉に千枚通しを3回ずつ突き立てたのである。3日後に病院で死亡したジョーンズは、警察にこのように語った。
「あの子がどうしてこんなことをしたのか、私には判らない」
間もなくアダムスは逮捕された。
アダムスによれば、それは嘱託殺人だった。
「ジョーンズさんは高額の税金を請求されて困惑していました。とても払える額ではありませんでした。彼は私に頼みました。どうか私を殺してくれと。私は1週間ほど悩みました。でも、最終的に承諾しました。千枚通しを手渡したのはジョーンズさんです。私は云われるままに刺しただけです」
現場には「チャーリー・スミス」という名のもう一人の人物がいたとアダムスは供述した。
「ジョーンズさんを刺した後、私とチャーリーは財布を奪って逃げました。もちろん、強盗の仕業に見せかけるためです」
しかし、警察はこの「チャーリー・スミス」なる人物を見つけることは出来なかった。
嘱託があったとの証拠は何一つない。故にウィリアム・アダムスは殺人容疑で有罪となり、死刑を宣告された。但し、後に時の内務大臣の計らいで終身刑に減刑されている。
思うに、殺人の嘱託などはなく、単に小金欲しさ故の犯行だったのだろう。ただ、アダムスと被害者の老人との関係が今一つ判らないため、明快な答えが見つけられないでいる。ひょっとしたらアダムスは男色行為を強要されていたのでは…などと考えると、事件の見方が変わって来る。誠にミステリアスな事件である。
(2011年5月12日/岸田裁月) |