1968年12月20日、カリフォルニア州ヴァレーホのレイク・ハーマン・ロード、通称「恋人たちの小道」での出来事である。午後11時頃、息子を迎えに町まで車を走らせていたステラ・ボルヘスは、道に横たわる人影を見つけた。咄嗟に事故だと思った。そばには車が停まっている。すぐにもう一つの人影を見つけた。今度は女性で、道路脇の砂利の上で大の字になっている。
事故じゃない! 殺人だ!
怖くなった彼女はアクセルを踏んだ。やがて680号線に近づいたところで前方からパトロールカーが見えた。彼女はクラクションを鳴らして停止を求めた。直ちに救急車が呼ばれたが、デヴィッド・ファラデー(17)とベティ・ジェンセン(16)は助からなかった。
二人はデート中に何者かに銃撃されていた。おそらく車内でペッティング中の二人は、犯人から車外に出るよう命じられた。これを拒むと犯人はリアウィンドウに1発、左後部のタイヤに1発撃ち込んだ。驚いて外に飛び出したところ、犯人はデヴィッドの左耳の後ろに拳銃を突きつけて引き金を引いた。逃げるベティは背後から5発撃ち込まれていた。警察が駆けつけた時には彼女はまだ息があった。しかし、病院に運ばれる途中で死亡した。
半年後の1969年7月5日午前12時40分、ヴァレーホ警察に以下のような電話があった。
「二つの殺人を報告しよう。コロンバス・パークウェイを東に1マイルほど進んだ辺りの駐車場で、茶色の車に乗った男女が死んでいる筈だ。凶器は9ミリのルガーだ。俺は去年もこんな連中を殺っている。あばよ」
警察がブルーロック・スプリングス・パークの駐車場に急行した時には二人はまだ生きていた。マイケル・マギュー(19)は首を撃たれていたが、幸い致命傷ではなかった。しかし、弾が舌を貫通しており、とても話せる状態ではない。一方、ダーリーン・フェリン(22)は右腕に2発、左腕に2発、背中に5発も撃たれて虫の息。救急車で運ばれる途中に死亡した。
やがて話が出来るまでに恢復したマイケルは、犯行の状況をこのように語った。
「明るい黄褐色の車が僕らの後方に停まった。僕らを尾けているようだった。『誰か知ってる人?』とダーリーンに訊ねた。彼女は答えた。『いいの、気にしないで。何でもないわ』」
実は彼女は人妻で、一児の母でもあった。この界隈では発展家として知られていた。
「まもなくその車はヴァレーホ方面に走り去った。だけど5分ほどで戻って来た。やがて僕らは強い光に照らされた。警官だと思った僕は免許証を取り出そうとした。その瞬間に撃たれた」
マイケルは犯人の姿を見ていた。丸顔でがっしりした体格、身長は170cmほどで25〜35歳。髪は茶色のクールカットだった。
実はダーリーンは以前から同じ特徴の男にストーキングされていた。4ケ月ほど前にベビーシッターが白い車に乗った不審な男を目撃している。このことをダーリーンに伝えると、彼女はこう答えたという。
「私を見張ってるのよ。私を黙らせようとしてるんだわ。だって私、あいつが人を殺すところを見ちゃったんだもの」
男は5月にダーリーンの新居で催されたお披露目パーティーにも顔を出している。内装を塗り合う「ペインティング・パーティー」だというのに正装で、黒縁眼鏡をかけたその男は如何にも場違いに見えた。妹のリンダはダーリーンがひどく怯えていたことを憶えている。「あの人、誰?」と訊ねると、彼女はこう答えた。
「そばに寄っちゃ駄目! 絶対に話しかけないでね!」
リンダによれば、その男はリーと呼ばれていたという。
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