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パメラ・スマート
Pamela Smart (アメリカ)



パメラ・スマート

 教え子を唆して夫を殺害させた女教師のニュースは、我が国のワイドショーでも大きく取り上げられた。ジョンベネ事件と並ぶスキャンダラスな事件である。すぐさまニコール・キッドマン主演で映画化されたので御存知の方も多いかと思う。

 パメラ・スマート(旧姓ウォジャス)、通称パムは1967年8月にフロリダ州マイアミの中流家庭に生まれた。事件の舞台となったニューハンプシャー州に転居したのは1980年のことだ。ハイスクール時代のパムはとにかく目立ちたがりで有名だった。誰とでも寝るので、当時のハードコア女優にちなんで「セカ」と呼ばれていたという。たしかにセカに似ていなくもない。

 パムがグレッグ・スマート
出会ったのは1985年の大晦日、友人宅でのパーティーにおいてだった。ロックバンドをやっていたグレッグも女たらしで有名で、2人はたちまち結合した。コリン・ウィルソンはこのあたりを、
「極度に自己中心的な2人が互いに相手を『落とす』ことを目論んだのは自然の成り行きだった」
 などと高尚に解説しているが、要するに「双方とも目立ちたがりのドスケベだった」というだけのはなしだ。やがてパムはフロリダ大学に進学、2人は離ればなれになるが、それでも連絡は取り合っていたようだ。1987年にはグレッグがパムの下宿先に転がり込み、運命のカップルは同棲を始めた。当時のパムは地元のラジオで「ミスDJ」みたいなことをやっていて、グレッグがその選曲を手伝ったりしていた。
 翌年には婚約し、グレッグはロックバンドの夢は捨てて保険の外交員となり家計を支えたが、パムはニュースキャスターになる夢を捨てなかった。「極度に自己中心的な」2人は喧嘩が絶えず、レストランでの口論の末にパムにビールをぶっかけたグレッグが店を追い出されたりしていた。

 大学を卒業したパムはニューハンプシャーに戻り、地元の教育委員会が主催するメディアスクールで講師の職を得る。ニュースキャスターへの夢に一歩近づいたわけだ。目立ちたがりのパムはたちまち生徒たちの人気者になった。中でも特に好意を寄せたのがビリー・フリンセシリア・ピアスだった。共に15歳の高校生である。

 パムとグレッグは1989年5月に籍を入れたが、相変わらず喧嘩が絶えなかった。半年後には早々と破局を迎える。グレッグが浮気をしたのである。極めて自己中心的な彼女がこれを許す筈がない。普通なら三行半となる筈なのだが、彼女はそうはしなかった。彼女は自らも不倫することを選んだ。その相手がビリー・「フリン」だったのは悪い冗談である。



ビリーを骨抜きにしたパムの悩殺写真

 正直云って、パムは自分で思っているほど美人ではない。しかし、ニューハンプシャーの田舎町では十分に垢抜けていたし、ましてや相手は15歳の童貞である。左のような写真を見せられて誘惑されれば骨抜きになっちまうのも無理はない。まず車内でのペッティングから始まり、グレッグが留守の隙に自宅に招いてベッドイン。この時、何故かセシリア・ピアスも招かれていた。2人が2階から降りて来ないので不審に思い、寝室を覗くとパムがビリーに跨がっていたのであらショックぅ! 童貞の夢、騎乗位、騎乗位でございます。そして、絶頂の後に悪魔の囁き。
「いつまでもこうしていたいけどグレッグが邪魔だわ。あなた、殺してくれないかしら」
 ビリーは当初は冗談かと思ったが、交わるたびに囁かれる。どうやら彼女はマジらしい。手にするカードは「殺す」「別れる」「ママに泣きつく」。どうする?、俺。どうするのよ!?



『誘う女』でパムに扮するニコール・キッドマン

 1990年5月1日午後10時、グレッグの遺体はメディアスクールから帰宅したパムにより発見された。銃で頭を撃たれている。家の中は荒らされ、グレッグの財布の中身が抜かれていることから強盗の犯行かと思われた。

 捜査が進展しないまま1ケ月が過ぎた6月10日、ヴァンス・ラティームが警察に出頭し、
「うちの息子とその友だちが私の銃を持ち出してスマートさんを殺しました。本当に申し訳ない」
 涙ながらに打ち明けて、凶器の銃を差し出した。ビリー・フリンとJ・R・ラティームピート・ランドールの3人がスマート宅に押し入り、グレッグを殺害したというのである。しかも、目的はハナからグレッグの殺害で、それを計画したのが妻のパムだというのだから、こりゃ大事だ。

 実はこの界隈では、グレッグが殺される1ケ月も前から若者たちの間で「ビリーが殺しの相棒を探している」と噂されていた。ビリーとパムの関係も周知の事実だった。だから、息子の友だちから聞かされて事実を知ったラティームが出頭しなくても、パムに手が回るのは時間の問題だったのだ。なにしろパムはセシリア・ピアスにも夫の殺害計画を打ち明けていたのだから。
 まったくバカとしか云いようがないが、おそらく「極めて自己中心的な」パムは教え子たちはみな自分を裏切らないと信じていたのだろう。ところが、教え子たちは手のひらを返して「パムが主犯」と指差した。つまり、彼女は己れの性格ゆえに夫を殺し、己れの性格ゆえに御用となったのである。愚かなり。

 かくしてパメラ・スマートは夫殺しの謀議と共犯で有罪となり、仮釈放なしの終身刑を宣告された。一方、実行犯であるビリー・フリンは懲役40年、他の2人は懲役30年の刑を宣告された。


参考文献

『情熱の殺人』コリン・ウィルソン(青弓社)
『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)


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