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ジョー・ピール
Joe Peel (アメリカ)



ジョー・ピール


フロイド・ホルザッフェル

 ジョー・ピールは典型的な悪徳判事である。暗黒街と通じているばかりか、自らも手下を使って恐喝を繰り返していた。そんな彼が忌み嫌うのが、清廉潔白な同僚のカーティス・チリングワース判事である。彼からの2度目の譴責処分を受けたピールは法曹界から閉め出されることを恐れていた。殺しの動機としては申し分ない。

 1955年6月15日、チリングワース判事とその妻のマージョリーが、フロリダのパーム・ビーチに面する別荘から行方不明になった。盗まれた物は何もない。車も手つかずだ。ただ、浜辺へと通じる階段に血痕が点々と残されていた。
 真っ先に疑われたのはピールである。あの悪徳判事がゴロツキを雇って政敵を始末したのではないか? 真相はその通りだったのだが、この時点では証拠は何一つない。遺体すら見つかっていない。ようやく立件出来たのは5年後のことだ。実行犯のフロイド・ホルザッフェルが別件で逮捕され、すべてを自供したのである。
 ホルザッフェルはピール判事の「下請け」の1人だ。彼が語った犯行の一部始終は、以下のような凄惨なものだった。

「午前0時を少し回った頃、俺と相棒のボビー・リンカーンは小さな釣り舟でリビエラ・ビーチからパーム・ビーチへと向かった。釣り舟には自動車用のエンジンが取り付けられていたんだが、これがすぐに焼けそうになるので困ったよ。15分おきにエンジンを切って、しばらく冷やしてまた進む。そんなこんなで判事の別荘が見えるまで1時間もかかっちまった。
 事前の計画では、判事はすぐに家に入れてくれる筈だった。ヨットが沈んだので助けてくれと頼めばすぐに入れてくれるだろうってね。ところが、警戒していたのか、なかなか入れてくれないんだ。仕方がないので拳銃を出した。そして叫んだ。
『手を挙げろ! 他に誰かいるのか!?』
 ピールの話では、別荘には判事しかいない筈だった。ところが、どういうわけか奥さんがいた。これが第2の誤算だ。俺の声を耳にして奥から現れやがった。俺はボビーに口笛で合図した。そして、2人を縛り上げたんだ。
 血痕はどうしてついたかって? あれはあのアマが悪いんだ。階段を降りる途中で悲鳴を上げやがったんだよ。だから、拳銃で頭を殴った。今思えば、血が吹き出すほど殴ることはなかったんだが、あの時はこっちも動転していたんで仕方がなかったんだ。
 俺たちは2人を釣り舟に乗せると、忌まわしいおんぼろエンジンと格闘しながら3kmほど沖合いに出た。判事は死を覚悟してたよ。奥さんに向かってこう云った。
『マージョリー、忘れないでくれ。君を愛している』
 すると奥さんは答えた。『私も愛してるわ』ってね。泣かせるじゃねえか。だが、俺たちはプロだ。情けは無用だ。俺は云った。
『レディーファーストだ』
 そして、奥さんを海に放り込んだ。
 奥さんが海に沈むと、判事は暴れ出して海に飛び込みやがった。助けようとしたのか、それとも1人だけ逃げようとしたのかは判らない。いずれにしても手足が縛られているので泳げない。海の中で必死でもがいていたよ。こっちは逃げられちゃ困るから、ショットガンで頭を殴りつけた。砲身が折れちまったが、奴はまだ沈まなかった。仕方がない。肩を掴むと舟まで引き寄せて、錨を首に巻きつけた。これでようやく判事は沈んで行ったんだ」

 夫妻の遺体は遂に発見されなかった。

 その当時、別件で服役していたボビー・リンカーンは検察側に協力することで訴追の免れたものの、ホルザッフェルには死刑(後に終身刑に減刑)、ピールには終身刑が云い渡された。21年服役した後、1982年6月に釈放されている。

(2008年10月12日/岸田裁月) 


参考文献

『殺人紳士録』J・H・H・ゴート&ロビン・オーデル著(中央アート出版社)
週刊マーダー・ケースブック49(ディアゴスティーニ)
『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)


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