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ケネス・ニュー
Kenneth Neu (アメリカ)



ネット上で手に入るニューの唯一の写真

「精神病の前歴を持つ25歳のナイトクラブ歌手」
 英国の著名な犯罪研究家J・H・H・ゴートは著書『殺人紳士録』の中でケネス・ニューをこのように紹介している。「精神病」と「
ナイトクラブ歌手」のギャップがユニークだ。「ハンサムな青年」との記述もあり、どんな顔だったのだろうとインターネットで検索してみたら、左の写真に行き着いた。歌っているのか、それともキチガイ特有の雄叫びなのか判別がつかない、これまたユニークな写真である。ハンサムには違いないが、その犯行は身勝手で、同情の余地がない。

 1933年9月、職にあぶれていたニューは、宛てもなくニューヨークの街をさまよい歩いていた。すると、タイムズ・スクエアで1人の男に声をかけられた。自称「劇場主」のその男、ローレンス・シードは彼に仕事を約束し、自宅へと招いた。
 この時点で怪しまなければならない。おっさんはゲイではないのかということを。16歳の頃、歌舞伎町の映画館でゲイに追いかけられた私だからこそ判る。このおっさんは間違いなくゲイである。
 やっぱりゲイだった。おっさんは部屋に入るなりニューに抱きついてきた。慌てた彼は、そばにあったアイロンでおっさんの頭をボコボコボコ。ピューと血が噴き出し、おっさんはその場に崩れ落ちる。自業自得といえどもおっさんかわいそう。しかし、一文無しのニュ−はおっさんの背広を剥ぎ取るとそれを羽織り、時計と財布を奪うと「ケッ」と遺体にツバを吐きかけて、その場を後にしたのだった。

 2週間後、おっさんの背広を着た彼はニューオリンズに高飛びしていた。そこでニューヨークに憧れる若いウェイトレスを誘惑し、「ぼくが案内してあげるよ」と軽はずみな安請け合い。ところが、彼は既におっさんから盗んだ金を使い果たしてオケラけらけらケセラセラ。しょうがない。今一度おっさんを殺そうと、高級そうなホテルのロビーで物色し、シェフィールド・クラークに目星をつけたのである。その後をつけて部屋に押し入り金品を要求。おっさんが抵抗するとボコボコボコと連打して、その首を締め上げた。そして、所持金300ドルを奪うと、非常口から逃げ出したのである。

 車ももちろん盗んだものだ。ナンバープレートを取り外し、代わりに「新車移動中」の断り書きを貼り付けると件のウェイトレスを拾って、ニューヨーク目指して出発進行。ところが、ニュージャージーにまで来たところで警官に誰何されて、呆気なくお縄となったのである。
「お前、指名手配されてるぞ。このローレンス・シードとかいうおっさんに見覚えはあるか?」
「はい、私が殺りました。今着ている背広は彼のものです」
 観念したニューはクラークの殺害も自供し、1935年2月に絞首刑に処された。

(2007年10月18日/岸田裁月) 


参考文献

『殺人紳士録』J・H・H・ゴート&ロビン・オーデル著(中央アート出版社)


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