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レイモンド・リセンバ
Raymond Lisenba
a.k.a. Rattlesnake James (アメリカ)


 1935年8月5日、ロサンゼルスの自宅の庭でメアリー・リセンバが遺体となって発見された。池に顔から突っ伏して溺死していたのだ。泥酔していたことから事故死のようにも思えるが、殺人の可能性も否定できない。彼女の脚に残されていた小さな刺し傷も奇妙だった。
 殺人だとして、第一容疑者は配偶者たるレイモンド・リセンバ、通称ロバート・ジェイムスだ。その過去を洗うと胡散臭さがぷんぷん漂う。床屋である彼はこれまでに5回も結婚していたが、3回は離婚、1回は死別。なんと前の妻も浴槽で溺死していたのだ。妻が2人も溺死するなんてことはそうあることではない。しかも、先妻の死により1万4千ドルの保険金を手にしている。
 しかし、確たる証拠がないままに月日は流れ、翌1936年5月になってようやく有力な情報が寄せられた。ロサンゼルス・ヘラルド紙の記者がバーテンから聞いた話だ。

「うちの常連がね、へべれけに酔っぱらって、トンデモねえことを云い出したんでさ。俺は女房殺しを手伝ったことがあるってね。へえ、元水兵で、今では屋台でホットドッグを売ってるチャーリー・ホープっていう男っすよ」

 早速しょっぴかれたホープは渋々ながら「ジェイムス」に金で雇われてメアリーの殺害を手伝ったことを認めた。その手口はまったくもって驚くべきものだった。

「毒蛇で殺そうっていうんですよ。俺は奴から金を貰って、ペットショップで2匹買って来ました。だけど、こいつの毒で本当に死ぬかどうかは判らねえ。試してみようってんで、兎で実験しました。だけどねえ、旦那。死なねえんですよ。風船みたいに膨らみましたけどね。
 こいつぁダメだ。もっと強力な奴にしようってんで、今度はガラガラ蛇を2匹買ってきましたよ。『ライトニング』と『リーサル』って名前の奴です。どうです。強そうでしょ? それで彼女に酒をしこたま飲まして眠らせて、脚をガラガラ蛇の籠の中に入れたんです。噛みつきましたねえ、2匹とも」

 彼女の脚にあった小さな刺し傷はガラガラ蛇が噛んだ跡だったのだ。

「だけどねえ、旦那。死なねえんですよ。今度は膨らみもしねえ。人一人を殺すってのは大変なんですねえ、旦那」

 同意を求められても困る。

「ボヤボヤしてると起きちまうってんで、風呂桶に運んで頭から突っ込んだんです。ええ、いちころですよ。ならば最初からこうすりゃよかったんだ」

 おそらく前のカミさんを浴槽で殺しているので、疑われまいと別の手口にしたのだろう。ところが、なかなか捗が行かない。そこで手っ取り早い馴染みの手口に切り替えたというわけだ。そのために案の定疑われて、こうしてお縄になった次第である。専門家の所見によれば、2匹のガラガラ蛇に噛まれれば、まず助からなかっただろうとのことだ。急がなければよかったものを。急がばまわれだよウォーク・ドント・ラン。

ガラガラ蛇のジェイムス(Rattlesnake James)」の異名で巷では知られるリセンバは、かくしてカリフォルニア州最後の絞首刑囚をいう栄誉を授かる。1942年5月9日に死刑執行。かたや共犯者のホープは裁判に協力したこともあって終身刑に留まる。いずれにしても、殺人は割が合わない犯罪だ。

(2008年7月11日/岸田裁月) 


参考文献

『愛欲と殺人』マイク・ジェームス著(扶桑社)


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