興味深い事件なのだが、参考資料が少なくて、今ひとつ紹介しきれてない事件というのが結構ある。中には情報が少な過ぎるためにボツになったものもある。誠にもったいないことである。おそらくこういう事件は私の脳内に何らかの痕跡を残し、今後の創作に反映されていくことになるのだろう。
本件の情報も少ない。こういう時は海外のサイトを当たるのだが、これまた少ないときている。新情報はほとんどない。かくなる上は嘘八百を並べるという手もあるが、それをするのは良心が咎める。なるべく事実に則して、且つ面白く書くというのが当館のモットーである。
じゃあ、はじめるよ。
1938年1月18日、ダーラムのウォルヴィストンにある農場の小道で、67歳のマーガレット・ドブソンが遺体となって発見された。彼女は強姦された上に、刃物で刺し殺されていた。
やがて、現場付近をウロついていた男に風体が似ているとの理由から、21歳のロバート・フールハウスに容疑がかけられた。尋問された時、その顔には引っ掻き傷があり、衣類には血が付着していたとされている。
彼には彼女を殺す動機があった。怨恨である。
ドブソン家はその一帯の地主で、フールハウス家はそこの小作農だった。ところが、5年前に仲違いし、追い出されていたのだ。当時16歳だったロバートが、横暴な女主人を恨んでいたことは容易に想像できる。
しかし、5年も経った今となって、わざわざ恨みを晴らすだろうか? 彼らはもう隣村でちゃんと生活しているのだ。
家畜を飼っていれば顔に引っ掻き傷ができることもあるだろう。それに、犯行現場で発見された足跡はロバートのものではなかった。
にも拘らず、ロバートは有罪とされた。1万4千もの助命嘆願の署名があったにも拘らず、そのまま処刑されたのである。今日では考えられないことであり、何か裏があったとしか思えない。
しかし、資料不足のために、これ以上は論じられない。
誠に残念なことである。
(2007年11月1日/岸田裁月) |